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悪い事態は重なるものだ。
榎野は素早く窓付近に移動し、階下を眺める。…すると、校舎向かいにある図書室全体から照明がフッと消え、女子生徒の悲鳴らしきものが僅かに聞こえてきた。榎野は慌てて、音楽室のスイッチを押す。…二度、三度。照明は変化しない。榎野はその場にへなへなと座り込む。呆れた顔で頭上を仰ぐと、窓越しに暗雲垂れ篭める空が見えた。
二回目の大音量が轟く。窓が再び微かに揺れる。…今度は、想定していた榎野も眩い光を視認するのに成功した。
落雷による停電。これでは、電気がつかない。とにかく今は、電力が復旧するのを音楽室で待つしか術がない。
榎野は、音楽室の扉に背を預け、体育座りをして時が過ぎるのを待つ。…すると、パタパタと小刻みな足音が近づいてきた。廊下か、と立ち上がりかけたが、違う。室内に固定された視界に、覚束無い足取りの男が現れた。
「…楠田先輩。」
声をかけた瞬間、榎野はしまったと思ったが、時すでに遅し。楠田は後輩の方に顔を向け、対象を把握すると、猛突進してきた。
「えっ??はっ、待っ…んん!??」
動揺している榎野を横目に、小柄な先輩は相手の胸に飛び込んでくる。
「榎野ぉぉぉ~~~っ!!」
立ち上がろうと伸ばしかけた後輩の足の上に、楠田がどっかりと跨る。榎野が目を白黒させていると、先輩は両腕を伸ばし相手の首に巻きつけてくる。
「榎野っ!!この野郎っ!!すげぇ助かった…!!」
ぎゅうぎゅうと力任せに抱きしめられ、榎野には何が何だかわからない。けれど、三回目の落雷に楠田が大きく震えた途端、意味がわかった。
楠田は落雷の音が聞こえてくる度。相手に身体を密着させてくる。突然のスキンシップにドギマギしながら、榎野は言葉を振り絞る。
「ええっと、先輩…??もしかして、雷、苦手ですか??」
「うん。」
即答だった。…最早、雷の脅威の前には年上の威厳など欠片も存在しないらしい。
「怖い。」
小さく呟く年上の男に、柄にもなく優しくしたくなって、榎野は相手の背を大きく撫でる。
「怖くないですよ。…先輩、ほら。俺、ここにいます。」
「…ん。」
ややあって、榎野が後輩からそっと体を離す。今までにない至近距離で見下ろされて、榎野は鼓動が痛いくらい鳴っているのがわかった。
礼でも言われるのかと思ったが、違った。楠田は両手で服の裾を掴み、グイグイと下に引き伸ばしている。おまじないの一種か、と考えた楠田だったが、少ししてわかった。
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