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鉛のような沈黙が、こっちにまで伝わってくる。
横にいる奏英の顔が見れなかった。また目が合ったら、俺はなんて言えばいいんだろう。
奏英はなんで俺にこの映像を見せたかったんだ。わからない。
『……ビデオ、切らないと…』
「っ……」
映像の中の奏英が話すだけで、体が強張る。
恐らく、首を絞められて死んでしまったであろう裕也くんの中から自身を抜いた奏英は、気怠げにベッドから降りる。力無く仰向けに横たわる裕也くんは、ピクリとも動かなかった。その開ききった後孔からは、後を追うようにして白濁が流れ落ちていく。
その姿に、胃からせり上がってくる物を感じて咄嗟に口を抑えた。そのせいで、ビデオカメラをシーツの上に落としてしまい、映像はそこで途切れた。
「っう……ゲホゲホッ!!」
胃酸が口の中に広がり、手で受け止めきれなかった吐瀉物が指の隙間から腕を伝って落ちていく。目を瞑ると、最後のあの映像が鮮明に浮かんでは、言葉で表しきれない、綯い交ぜになった感情が脳裏を埋め尽くす。
可哀想に。俺もああなるのか。人形みたいにされて、玩具にされて、捨てられて、
「うっぐ…っ、ふ…!」
「………大丈夫? 侑太郎」
怖い。嫌だ。でも、奏英は優しい。俺のことが好きだから優しい。
……あれ? それって優しいのか? 奏英が俺を好きじゃなくなったら? 裕也くんみたいに、勢いで、変なことを言ってしまったら……?
背中に触れた奏英の手に、大袈裟なくらい体が跳ねた。それに驚いたのか、奏英の手が一瞬離れる。
その時、一つの予想が頭をよぎった。
「…か、奏英……なんで、俺にこれを見せたんだ…?」
「……侑太郎が見たいって言ったから」
奏英は、確かに頭のおかしな誘拐犯で、レイプ犯で、殺人犯だ。
……でも、最初からそうだったわけじゃない。
父に勉強を強いられ、友達と満足に遊べず、弟を羨んで生きてきた。" 普通 "の弟を天才だと勘違いし、自分と比べて、憧れるふりをして、恨んでいた。
奏英に必要だったのは、奥さんでも家族でも、増して恋人でもない。
側にいてくれるたった一人の友達。
「じゃあ……なんで、俺にお前の話を教えてくれたんだ?」
奏英は、落ちたビデオカメラを拾いながら、小さく笑う。
「侑太郎に……僕のことを、知って欲しくなったから……」
「…………」
「僕は、色んな人のせいでこうなっちゃって、自分でも酷い事してるってわかってるんだけど、抑えられないんだ……。だから、侑太郎には……裕也くんみたいなことを、僕に言わないで欲しい」
奏英は俺から目をそらし、俯いた。
「侑太郎だけは、殺したくない……」
奏英の、そんな震えた声を聞くのは初めてだった。
「…………」
……正直、今でも奏英が怖い。突然何をするかわからないし、ちゃんと対応していても突然変な妄想をして俺を否定する時もある。いつ殴られるのか、殺されるのかと、ビクビクしながら生きていくのにはほとほと疲れた。
でも、今の奏英を放っとけない。きっと、この世界で俺をこんなに必要としているのは奏英だけだ。
「……わかった」
「っ……え?」
「お前の側にいる……」
俺に選択権はない。でも今の奏英は、この言葉を求めてる。これが奏英に好かれようと思う俺の下心だとしても。
それを知ってら知らずか、奏英はまた泣いた。
その日一日、俺たちはベッドの上で何もせずに眠った。
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