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少し焦げてしまったハンバーグを食卓に並べ、手を合わせる。
久しぶりに自分で箸を握った。持ち方を忘れたなんてことはなく、長年で覚えた動きってのは意外と忘れないものなんだと実感する。
「味、どうだ?」
「……美味しいよ。今までで一番」
「はっ、言うと思った」
「………また、笑った」
「……悪いか?」
奏英が、首を横に振る。まるで子供だ。
俺は、笑うことを忘れた人形なんかじゃない。おかしい時も、楽しい時も、嬉しい時も笑うんだ。……今までその機会が無かっただけで。
俺もハンバーグを口にすると、いつもより少ししょっぱかった。ソースを入れ過ぎたのかもしれない。
でも、奏英は文句も言わずに、全て完食してくれていた。本当に美味しそうに食べてくれるその姿に、初めて奏英を可愛いと思う。
「あのさ……侑太郎に、言いたいことがあるんだ」
急にかしこまった奏英の様子に、思わず体がビクついてしまい、ハッとする。
「わ、悪い。今のは奏英が怖いとかじゃ……」
「わかってる。侑太郎が、ちゃんと僕と向き合ってくれてるのはわかってるから……だから、決めたんだ」
奏英の手が、俺の左手を掴む。
何事かとじっとしていると、指に冷たい金属が嵌められたのがわかった。
それは、左手の薬指に付けられた銀の指輪。
「僕と結婚して、侑太郎」
サイズがあまりにぴったりすぎて、いつ測ったのかと驚いた。細くなった薬指に嵌められたそれは、ダイヤも何も付いていないシンプルなもの。しかし、かなり高いんだろうと思わせる高級感が漂っていた。
あまりに不釣り合いな指輪。これに込められた奏英の思いを考えると、唇が震える。
………冗談だろ?
「な……何言ってんだよ。結婚とか…こんな状況じゃ無理だろ……」
「形式なんて必要ないよ。僕の中で、君と結婚したいんだ」
急に薬指が鉛のように重く感じた。外したいのに外せない。せっかく枷も外れて、奏英も優しくなってきた。今更拒絶するわけにいかないことは死ぬほどわかっている。
考えるな。かんがえるな。俺は奏英のもの。奏英は俺を好きで、俺はそれに応えなきゃいけない。そしたら奏英はもっと優しくなって、もっと笑うようになる。俺は奏英のものになって、今よりもっと幸せになる。
暴れだしそうになる思考にストッパーをかけて、薬指に嵌められた指輪を見つめた。自然とこぼれた笑みは、幸せからか、悲しみからか。
「……する……結婚する」
「本当!?」
奏英が、俺の体を抱き締める。
衝撃を受け止められなくてそのまま床に押し倒され、顔を上げた奏英と唇が重なった。
「侑太郎に出会えて、僕は本当に幸せだよ……」
幸せ?
……そうか。それなら、良かった。
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