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なんだか考えるのに疲れてしまって、目を瞑った。無意識のうちに、玄関から聞こえる奏英の話し声に耳を傾ける。
『……て、そう……。うん……』
駄目だ。全然聞こえない。
家族に頼ってるんだとしたら、恐らく親父に電話してるんだろうけど……。
奏英って、父さんと仲悪いんじゃなかったのか?
そんな思考を遮るように玄関の扉が閉まる音が聞こえ、反射的に体を起こす。
「ただいま。マレーシアの家取れたから、来月に詳しい話をしに行ってくるよ。侑太郎はお留守番頼むね」
「あ、あぁ……わかった」
留守番か……。
テレビを見るのはまだ許されてないし、寝るしかねぇな……。
そんなことを考えていると、奏英が突然、俺の左手を取った。それから、薬指に付けられた指輪をニヤニヤしながら見つめる。
「……そんなに嬉しい?」
気づけば、声をかけていた。
自分の声が思ったよりも浮かれていることに、内心驚く。どうやら、奏英の幸せオーラのせいで俺の思考も毒されてきたらしい。
奏英はさも当然というように頷くと、恥ずかしげもなく俺の左手に指を絡めて遊び始める。
「嬉しい。……今までで一番、幸せな気分」
「……奥さんじゃなくても?」
「うん。侑太郎が嫌なら、もう諦める。それに、結婚して侑太郎と家族になれるんだから……おんなじだよ」
「家族ね…………」
そうだよな。お前、最初からずっと家族欲しがってたもんな。
俺のどこがいいのか未だにわかんねぇし、ぶっちゃけ奏英も、誘拐した時は誰でも良かったのかもしれない。
でも、俺はこうして無事に殺されず生きてる。奏英になぜか気に入られて、俺もそれを「悪くない」と思うようになってきている。
でも、未だに気に入らないことが一つある。
「じゃあさ……もうセックスとか、しなくていいよな」
奏英は驚いた顔をして、弄んでいた指を止めた。
一瞬で、不気味な沈黙が降ってきて、忘れかけていた緊張感が体を包む。
……だって、奥さんじゃなくていいんだろ? だったら、いらないよな。
「だってそーいうのはさ、夫婦のやるもんだろ。家族って、なんか……一緒にいるだけでいいもんじゃねぇの?」
頷いてくれ。「侑太郎が嫌なら諦める」と言ってくれ。
「な、いいよな? しなくても、俺たち家族なんだから……」
もうこれ以上、体を荒らされたくない。奏英に掻き乱されて、無理やり気持ちよくさせられるのはもううんざりだ。
裕也くんのようになりたくない。自分で自分がコントロールできなくなる、"あの感覚"に慣れたくない。まるで女みたいに抱かれたくない……。
今の俺は、神様に泣いてすがりつくような情けない顔をしていたに違いない。
奏英は困惑したような表情で、ずっと黙ったままだった。こんな顔、初めて見た。多分、迷ってるのかもしれない。
イケる。押せば、
「でも……」
「そんなことしなくても、奏英のことちゃんと好きだから……ずっと、好きだから」
奏英がまた、動揺する。絡まった指に力がこもった。
奏英はきっと、したくて堪らないはずだ。でも、俺はできればしたくない。乱されたくない。
頼む、マレーシアでもどこでも付いてってやるから……!
「……わかった。もう、しないよ。侑太郎が嫌なら……」
「っ本当か!?」
イケた。まさか、奏英が俺の言うことを聞いてくれるなんて……!
ガッツポーズをしたい気分だった。勝った。これでかなり精神的にラクになる。
奏英のことは、ちゃんと大事にすればいい。俺なりに、奏英には幸せになってほしいと思ってるんだから……。
「でも、浮気したら許さないからね」
「ああ、わかってる」
浮気なんて、する相手もいない。
そう言うと、奏英は複雑な表情で笑った。
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