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落ち着いた音楽が流れるレコードとダークブラウンで統一したバーカウンター。
棚には姉さんが揃えた、色とりどりのリキュールとワインとウィスキー。
バーテンダーとしては、まだまだ未熟な俺にとって、身に余るほどのものたちばかりで。
店に来るたび、もっと早く、一人前のバーテンダーにならなくてはと思ってしまう。
何故なら、今の俺はバーテンダーとしての実力よりも、この見た目の方が人気で、俺としては、不甲斐ないことに尽きないのだが。
どうやら、思わず触りたくなる砂茶色のボブヘアーと愛くるしいこげ茶の瞳が、堪らなく魅力的な可愛いバーテンダーとして何故か人気が出てしまった。
ほんと、どうしてこうなってしまったのかと、小一時間程考えたくなるが。
どうせ考えても埒が開かないことなので。
自分の未熟さ故に、こうなってしまったんだなと思いながら。
一つ、ため息をつくと。
チリーンと、店の扉が開く音が聞こえた。
俺は音と共にゆっくりと開く黒の扉を見つめながら。
見覚えのある人物に思わず、とびっきりの笑顔を浮かべてこう話しかける。
「今日もきてくださったんですね。隆虎さん」と。
隆虎と呼ばれた人物は、俺の見せたとびっきりの笑顔のお返しと、
言わんばかりに優しい笑顔を見せながら。
「まあね。楓の入れてくれる酒を、今日も飲みたいたからな」と返してくるので。
俺はそんな隆虎さんの嬉しそうな顔を見て、ついつい嬉しくなる。
だって…隆虎さんは、数少ない俺の入れたお酒を楽しんでくれる常連客の一人で。
クセのある焦げ茶色のミディアムヘアーに、キリッとした茶色の瞳。
ワイシャツとジーパンという、ラフな服装なのに何故か品があって。
男の俺でもクラクラするほどの、優しいけど何処か言い知れぬ怪しい魅力を持った人で。
ああ…ほんと。
こんなカッコいい人が、うちの常連客になってくれるとは…夢にも思わなかったな。
そう心の中で思いながら、カウンター席へゆっくりと腰掛ける隆虎さんに、水とおしぼりを手渡した。
「ありがとう楓」
隆虎さんはそう優しい声音で言いながら、おしぼりを受け取り、長く男らしい指を一つ一つ拭き始める。
俺はその行為を横目で見ながら、こう話しかける。
「隆虎さん、今日は何から飲まれますか?」
「そうだな…? 今日はウィズ・バングだな」
「…ウィズ・バングですね。わかりました」
俺はそう注文した隆虎さんに、そう返した。
ー今日はウィズ・バングか…。
確か…ウィズ・バングはウィスキーベースのカクテルで、ドライ・ベルモットとかを入れた度数のきついカクテルだったかな…。
なんというか、流石…隆虎さんだな。
俺からしたら、こんな高いアルコールのお酒を、最初の一杯目から飲むなんて…。
真似したくても、真似できないよ。
だって俺、バーテンダーだけど。
お酒は、普通に飲める程度だから…。
隆虎さんみたいに、度数のきつすぎるお酒とかは一杯か2杯飲めるかって感じなんだよね。
ほんと…きついお酒も楽しめる、カッコいい大人な男に俺もなりたいよ。
そんな、小さな願望を頭の中で考えながら、ミキシンググラスに材料を入れて。
上手くいくように願いを込めながら、静かにかき混ぜる。
そして、容器を満たす赤茶色の液体が、綺麗に混ざり溶けるのを見届けながら、氷を入れたカクテルグラスに注いだ。
うん。
見た感じ上手くいけたかな。
そう自画自賛しながら、注文してくださった隆虎さんに「お待たせしました」と言いながら、ウィズ・バングを渡した。
「ありがとう楓」
受け取った隆虎さんはそう言いながら、カクテルグラスに口をつけて一口飲み、そして少し笑みを見せながら、カクテルをあっという間に飲み干した。
俺はそんな隆虎さんを見て、ホッとしながらこう話しかけた。
「隆虎さん、その…どうでした?」
「うん? ああ…とても俺好みで良かったよ」
俺のそんな問いかけに、そう気分の言い声音で隆虎さんは返してきたので、思わず俺は
「本当ですか!」と嬉しさのあまり思わずガッツポーズをしてしまった。
そんな浮かれた俺を見た隆虎さんは、からかうような声音で「おいおい。嬉しいからって、そんなことするなよ。本当楓は可愛いな」と俺をまじまじ見ながら呟いた。
「もう…隆虎さん! 俺は可愛くないですから!!」
俺は、隆虎さんの言葉にそう強く言い返しながら。少しむくれた顔になる。
だって…例えカッコよくて、すごく憧れてる隆虎さんでも『可愛いい』って、からかわれて言われるのはちょっとだけ癇に障る。
…なんというか。この人にだけはきちんと見てもらいたいって、気持ちが強くあるからなのか…分からないけど。
どうしてもからかわれて言われると、どんなお世辞でも嫌に感じてしまう。
本当俺…どうしちゃったんだろう…。
そんなことを頭の中で思っていたら、不意に「楓…そうむくれるなよ」と
隆虎さんの声が聞こえてきたので、
「むくれてないです…。」とぶっきらぼうにそう答えた。
「そうなの? そうと思えないんだけどな…」
隆虎さんは俺の言葉にそう返しながら、ポケットから見たことのない銘柄のタバコを一つ取り出し、まるで映画の一幕のような雰囲気を漂わせながら口に咥える。
そして咥えたタバコに火をつけながら、小さな子をなだめるような声音で
「…まあいいや。楓がそう言うならそうしておくよ」と呟いた。
「是非共、そうしてください」
タバコを吹かしながらそう言う隆虎さんに、俺はただただそうとしか返せなかった。
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