アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
真弓兄ちゃん 7
-
頭を撫でていた 手を 滑らせ 俺の頬をさすり やがて 確かめるように 俺のくちびるをスルっと 指でなぞった。
からだの すべてが 逆立つような ずくり とした 感覚がした。
「千春は元気に なって 本当に よかった。」
遠くを見るように 真弓兄ちゃんが 言って 手が離れていった。
「千春。もう少し 水を飲んどきな。普段酒 飲んだこと無いだろう?」
そう言って 今までの空気を切り替えるような 口調で 空になった食器を次々とお盆に乗せて テーブルを拭き台拭きと共にお盆を持ってすくっ と立ち上がり 襖を開けて すたすた と台所に 持っていってしまった。到底 ウイスキーをあれだけ飲んだ足取りには見えなかった。
再び 戻って来たときは 冷蔵庫から持ってきたらしい新しいミネラルウォーターを炬燵の台の上 俺の目の前にストンと置いた。
「さぁ もう遅いから 寝ようか。この部屋の炬燵のコンセント抜いとけよ。エアコンのスイッチ切るぞ。灯りも消しときな。それとも今灯り消そうか?僕が消してあげるから 千春 ほら 部屋に行って 寝なさい。」
俺は黙って ミネラルウォーターのボトルを持って炬燵のコンセントを抜き エアコンのスイッチをオフにして 立ち上がり 真弓兄ちゃんの前に立った。
すると 真弓兄ちゃんは くるりと 背を向け 立ち去って行った。
俺はもう一度 部屋を見回し 灯りを消し部屋の襖を閉めて廊下に出たときは 真弓兄ちゃんの姿はもう無かった。
この廊下をまっすぐ行って 階段、台所と玄関を過ぎて 廊下を直角に曲がって 濡れ縁を通って 俺の部屋の先 一番奥が客間。真弓兄ちゃんの部屋だ。
俺の家は 何年か前に 少し内装を変え 濡れ縁に面した部屋は 今は全てフローリングの洋間になっている。
障子に見える扉は プラスチックみたいな模様の板戸障子だ。
俺が中庭に面した濡れ縁を見たときは 真弓兄ちゃんの部屋の出入口の板戸が閉まった後だった。
ため息をひとつ。酒に火照った頬にミネラルウォーターを宛てて 廊下を通り 真弓兄ちゃんの部屋の方を眺めて 自分の部屋に入ってベッドにどさりと横になった。
久し振りに会った真弓兄ちゃん。昔と変わらず いや 昔より イケメンだ。
しかし女が居る。体を重ねる女だ。
俺の大学の冬休みはまだある。
明日 爺ちゃんが帰ってきて きっと留めて 正月まで 真弓兄ちゃんは居るかもしれない。
それからしばらくしたら 仕事を始める真弓兄ちゃんは この家に居ることになるだろう。
独り暮らしの部屋を見つけるまで。
爺ちゃんがここに住めと言うかもしれない。
でも真弓兄ちゃんはすぐ新しい部屋を見つけて そこに住むかな?
だって女が居るなら 独り暮らしの方が 良いに決まっている。
今夜二人じゃなくて 一人で来たのは 女の都合か?
それなら 女はどこに住んでいるんたろう?女は今までどこに住んでいたんだ?
女も何処かを引き払って こっちに住むのか?
それなら いっそ 一緒に住むための 部屋を探すのか?結婚するのか?
なんのために 俺は今夜真弓兄ちゃんと 会ったんだろう?やはり留守にすれば良かったのか?
会わなければ
真弓兄ちゃんは今度横浜に住むらしいよ。
ふーん。
で終わった話だろう?
未練がましく 何年も昔の たった一度の 出来事に 執着している俺は 何なんだろう?
遠い 遠い 記憶の 底に 鮮やかに 残る 淫靡な 出来事。
自慰をする 血気盛んな高校生の戯れに ちょっと混ぜてもらった 幼児の俺。
憧れの年上の親戚の兄ちゃん。
たまたま 赤ん坊を抱くのと同じレベルで 抱き締められただけ。赤ん坊の頬にキスするのと同じレベルで くちびるにしてもらったキス。
病弱な幼児の俺をオトナ達に言われて 構っていただけ。
もう 諦めよう。
真弓兄ちゃんのことは。
無かったことに なっているんだな。
真弓兄ちゃんの中で。
俺も そうするから。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
27 / 264