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season #47
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雅範は不穏な空気を感じ、明るく話題を振る。
「ね、ね、後ちょっとで夏休みじゃない?夏休みさ、みんなで遊ぼうよ。」
「そんなこと言って、お前部活は?」
淳一が肘をつきながら、ご飯を口へ運ぶ。
「あるよぉ。あるけど……ちょっとくらい休めるよ。修ちゃんは?」
「俺もまぁ……。お盆は休みだし。」
修がチラッと智を見ると、智はマネージャーのことを気にする様子もなく、
ニコニコ話を聞いている。
修の視線に気づいて、この間の、と言う様にふにゃりと笑う。
「智とカズは?」
雅範に聞かれ、智は修と顔を見合わせて嬉しそうに言う。
「おいら、みんなで海に行きたい。」
「海……いいですねぇ。私はどうとでもなりますから。」
和哉も智に向かって、楽しそうに微笑む。
「ジュン君は?」
雅範が淳一を見ると、みんなも一斉に淳一を見る。
智は、野球部は難しいと言っていた修の言葉を思い出す。
せっかくならみんなで行きたい。
智の顔に不安の色が浮かぶ。
淳一はそんな智に気づき、微笑んだ。
「いいよ。行こうよ。みんなで海。」
淳一の一言に、智の顔から不安が消えていく。
「よし!じゃ、いつにする?どこにする?何する?」
雅範は楽しくってしょうがないといった様子で、修と智に話しかける。
「やっぱ、お盆は込むかなぁ?」
雅範と一緒に修が計画を練り始める横で、智がポツリとつぶやく。
「よかった~。」
嬉しそうに笑う智を見て、淳一も嬉しそうにニヤニヤする。
「なんですか。気持ち悪い。」
和哉がそんな淳一の脇を小突く。
「智が喜んでるなぁと思って。」
「あなたはみんなで行くの、楽しみじゃないんですか?」
和哉が意地悪く笑う。
「楽しみだよ。5人揃ってどっか行くのなんて、幼稚園以来じゃない?」
「あはは。そうですね。」
和哉の笑い声に、雅範が反応する。
「どうしたの?」
「え?ふふ。5人で出かけるの、幼稚園以来かなって。」
和哉が笑いながら答える。
「違うよ。5人で行ったじゃん。カブトムシ取りに。」
雅範が片方の唇の端だけ引き上げて笑う。
「行ったね~。懐かしい。」
淳一も懐かしそうに目を細める。
「あれ、何年だっけ?」
「ジュン君、記憶力悪いな~。3年だよ。3年!」
「よく覚えてますね~。」
和哉が嫌味っぽく笑うと、雅範がちょっとムッとする。
「大事件だったじゃん!忘れるわけないよ。」
「懐かしいね~。んふふ。楽しかったね~。」
智は懐かしそうに空を見上げる。
今日の空も、あの時と同じように、抜けるような青空。
入道雲まで顔をのぞかせている。
「時期も、これくらいじゃなかった?」
修も懐かしそうに顔を歪ませる。
5人は尽きることのない昔話に、時間を忘れて笑い合った。
智が部活に向かおうとしていると、後ろから声を掛けられた。
「小野寺君。」
振り返ると、貴田がにこやかに立っていた。
「貴田君……。」
智は歩みを止め、貴田が近づくのを待つ。
「昨日……ちゃんと話した。」
貴田は、はにかむようにそう言って、首をさする。
「彼女……わかってくれた?」
智が心配そうに貴田を見ると、貴田はにっこり笑った。
「うん。……最初は戸惑ってたみたいだったけど、自分の気持ち、ちゃんと伝えた。」
晴れ晴れとした顔でそう言う貴田を見て、智もにっこり笑った。
「そっか。よかったね。」
「うん。……小野寺君のおかげだよ。ありがとう。」
「おいらは何も……。」
「小野寺君が背中を押してくれたから。」
「そんなことないよ。貴田君に勇気があったから。」
「自分の気持ちに……嘘はつけないから。」
「うん。……よかった。」
「これから部活でしょ?……それだけ。それだけ言いたくて。」
貴田は踵を返すと、手を振って帰って行った。
その清清しい笑顔を、智は複雑な想いで見送った。
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