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season #74
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5人がお風呂から上がると、そっと部屋に戻っていく。
時間はまだ5時半を過ぎた頃。
宿の裏では淳一のおじさん達が、忙しそうにし始めていたが、
廊下はまだシンと静まりかえっている。
「朝日、綺麗だった。」
智がポツリと言うと、修もにっこりうなずく。
「あれ?雅範は?」
淳一が回りをキョロキョロする。
「あのバカ、すぐちょろちょろするんだから。」
和哉はちょっと戻って、曲がってきた廊下を覗いてみる。
「お風呂、出るとこまでは一緒だったのに……。」
智も眉を下げて首を傾げる。
「散歩にでも行ってるんじゃない?」
修は心配する様子もなく、さっさと廊下を歩いていく。
智と和哉は顔を見合わせるが、修の後に続いた。
「俺、朝飯の時間、聞いてくる。」
淳一がそう言って軽く手を上げ、食堂の方へ曲がっていく。
「先戻ってるね。」
和哉が答えて、智の袖を引いた。
「嫌な予感がする……。雅範だけがいなくなると決まって……」
「うん……。そっち系のことが多いよね……。」
智が不安そうに眉を下げる。
「マー君、いい人だから、好かれちゃうんだよね……。」
「そうそう。人間にも好かれるし、動物にも好かれる……。」
「……大丈夫かな?」
「1時間経っても戻ってこなかったら、探しましょう。
どっかで湯あたりしてるかもしれないし。」
「待ってよ~。」
雅範は風呂から上がると、みんな着替え終わるところだった。
「お前、風呂長すぎ!先行くからな。」
修が怒ったように言うと、雅範は慌てて体を拭いていく。
「いいよ。先帰ってて。」
雅範が口を尖らせると、智がにっこり笑って雅範の前に立つ。
「待ってるよ。」
智の笑顔に雅範の顔もほころんでいく。
「だから智好き!」
裸のまま智に抱きつこうとした雅範を、修が間一髪で止めに入る。
「早く着替えろよ。」
「あはは。ほんと、修ちゃん、智以外には冷たい!」
淳一がタオルを首に掛け、修に向かって髪をガシガシと拭いていく。
髪についた水しぶきが飛ぶ。
「ばか!止めろよ。」
修が手で顔をさえぎると、淳一は雅範を見て、にっこり笑った。
結局、みんなで雅範を待って、一緒に帰った。
雅範が、最後尾で髪を拭きながら窓の外を見ると、さっきのおじさんが手招きしている。
「あれ?おじさん、いつ上がったんだろ?」
いつまでも手を振り続けるおじさんを、どうしようかと思い、チラッとみんなを見る。
みんなはまるでこっちに気づかずに廊下を曲がって行ってしまう。
雅範は仕方なく、一人、中庭に通じる扉の方へ向かった。
そこにおいてあるツッカケを借りて、中庭に出てみると、おじさんが一人で立っている。
「おじさん、どうしたの?」
「君たち、島へ行かなかったかい?」
「島?小さな洞窟のある?」
「そうそう。」
「行ったよ。昨日。」
「そうか……やっぱり。」
おじさんは腕を組んで難しい顔をした。
「え?なんで、なんで?」
「あの男の子……。最初にお風呂に入ってた……。」
「修ちゃんと智?」
「その、かわいい方の……。」
「じゃ、智だ。」
雅範は腰に手をやって、大きくうなずく。
「その子をここへ連れてきてくれないかな?」
「どうして?」
「……たぶん……憑いてる。」
「ついてる?……憑いてる!」
「うん。島から連れてきちゃったんだろうね。」
「え?何を?」
「……きれいな女の人。」
「え?それって……。」
おじさんはさわやかに笑った。
「うん。」
おじさんが全部言わなくても、雅範にもわかった。
「幽霊?」
ブルッと身震いした。
風呂上りの体が冷えたのか、はたまた寒気がしたのか。
雅範は浴衣の前を深く合わせる。
「だから、連れてきてくれる?」
「おじさん、除霊とかできんの?」
「除霊……ま、そんなようなことかな?」
雅範がじっと見ると、おじさんは自信ありそうに顎を撫でる。
「ただし、さっき一緒にいた、もう一人……しゅ…う君だっけ?」
「修ちゃん?」
「そう、彼は連れて来ないで欲しいんだ。」
「……なんで?」
「彼は……何かがすごく強い。」
おじさんは眉間に縦皺を作り、難しそうな顔をする。
雅範が首を傾げる。
「何かって?」
「わからない……。でも強力な何かを持っていることは確かだ。
それがあると、除霊の邪魔になりそうなんだ。」
「ふぅん。わかった。智だけ連れてくるのね。
おじさんずっとここにいる?」
「いや、そうもできなくてね。もう少しで帰らなきゃならないんだよ。」
「……わかった。すぐ連れてくるから、智をちゃんと守ってよ。」
「おう。任しとけ。」
おじさんが胸を叩いたので、雅範は宿の中へ戻っていった。
「すぐ連れてくるからね!」
そう言う雅範の後ろ姿を、おじさんは心配そうに見送った。
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