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行きたくない
この言葉を何度繰り返したか、数える気にもならない。
家に早歩きで帰ってきたはいいものの、今日が終われば明日が来るのである。
郁也は自室のベッドに寝ころび行きたくないということだけを考えた。
今日傷ついた出来事を振り返っていてはきりがない。
しかし、そうは思っていても脳内で勝手に再生される。
クラスメイトのひそひそ話、麗華の甲高い声、圭吾の茶化し、宏行の----
宏行のあの瞳。
こわい、何もかもに押しつぶされそうだ、重力ってこんなに重かったっけ。
白い天井を見つめながらただぼんやりする。
明日にでも世界が滅びたらな。
なんて現実離れした考えを真剣に考えながら郁也は風呂へ向かい、夜遅くに帰ってくる兄のために夕飯を作った。
目が覚めた。
「ん、なんだ、起きちゃったか?」
心地よい、大きな手によって郁也の細い髪がさらっと音を立てて頬に落とされる。
きもちいい…。兄ちゃんの手だ…。
思わず目を細める郁也に兄の口元が緩む。
郁也の兄、小野寺海斗は読みかけのページにしおりを挟んで本を閉じた。
「郁、こんなとこで寝てたら風邪ひくぞ?」
温かい兄の声に郁也は意味もなくうなずく。
まだ覚醒しきってない郁也の脳による精一杯の反応だった。
「今日は一緒に寝るか。」
兄が郁也の髪をくしゃっと撫でる。
段々郁也の目の焦点があってくる。
そして真っ先にあったのは兄の柔らかい笑顔、そして次にその後ろにあるデジタル時計。
時刻は午前の2時半。
そうか、僕、夕飯用意したあと寝落ちしちゃったのか。
目をこすりながらふわふわと思い出す。
そして今日の、正確には昨日の出来事も思い出して胸が痛くなった。
刺されるってこんなもんなのかな。
顔を少ししかめる。
すると兄は心配そうに「どうした?どっかいたいのか?」と声をかけてくれる。
「ううん、なんでも。」
首を振って上体を起こす。
「兄ちゃん、今日、一緒に寝てもいいの?」
中学生にもなってこんなことをいうのは郁也自身恥ずかしかったが、今は兄のぬくもりがないと眠れそうにもなかった。
「ったく、今日だけな。」
ニコッと笑って郁也の肩を抱く。
「今日の飯もうまかったぞ」と本当にうれしそうに話す兄だけには、バレたくない。
郁也は「兄ちゃんには敵わないよ。」といいながら、家では普通に、勘づかれないようにしよう。
そう決意した。
自分の泣きはらした後の赤い目に、郁也は気づかなかった。
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