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11※
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いつも通りの朝。
とはいかなかった。
郁也は雀の涙に等しい勇気を精一杯に振り絞って学校にたどり着いた。
門をくぐるのも、下駄箱を開けるのも、学校で行う動作すべてに警戒した。
次に何が起こるかわからない。もしかしたら誰かが細工してるかも。
疑心暗鬼に満ちた心で何とか教室の前にたどり着く。
ここまでは何もなかった。
だからきっと、この先も大丈夫だ。
大丈夫、大丈夫、大丈夫。
そう言い聞かせながら教室の扉を開ける。
真っ先に郁也は自分の席に目をやる。
今日は昨日と違って席はあった。
何も以上はなさそうに思えた。
郁也は内心ほっとしながら席へと向かう。
この時間は生徒もまちまちだが、郁也にとって、その数人の視線でさえ凶器と化した。
さすがにこの人数で愚痴を言う者はいなかったが目をたがいに合わせてクスクスと笑っている生徒が何人かいた。
とりあえず席に…
生徒の視線から逃れるために席へ急ぐ。
そこで郁也の心臓はまたも締め付けられる。
何、これ…。
本来ならこの時間あるはずのない物が、郁也の椅子にばらまかれていた。
ガラガラッと勢いよく扉があいた。
怖くて振り返れなかったが、
「おーーわりーなつっちー寝坊しちまってさぁ」
声を聞いただけで誰が入ってきたのかはわかる。
山岳圭吾だ。
「いいっていいって」
つっちーと呼ばれる生徒が軽いノリで圭吾に応える。
クラスメイトに疎い郁也は「つっちー」がいったい誰なのかわからなかったが、おそらくこれは「つっちー」の仕業だろうと思う。
郁也の椅子には牛乳が一面に広がり、まかれたばかりなのか床に滴って小さな水たまりをつくっていた。
そして真っ黒に汚れた埃っぽい雑巾が一枚椅子の上に置かれていた。
牛乳を吸って湿っぽくなっている雑巾から漂う独特の臭いに思わず郁也は顔をしかめた。
「よーー郁也ちゃん。」
圭吾が郁也のくるぶしを蹴って、自分の席へ歩いていく。
突然の痛みに肩が震える。
ぞろぞろと生徒が入ってくる。
なんだなんだと入ってくる生徒が郁也に注意を注ぐ。
郁也は立ち尽くしたまま、頭がショートしていた。
何、どうしたら、
今この現状に頭がついていかず、ひたすらどうしたらいいかを考えた。
頭が真っ白になり、舌が痺れる。
冷汗が止まらない。
「さっさと片せよ。くせぇ」
威圧的な声にまた郁也の肩が震える。
宏行の声だ。
そうだ、とにかく片さなきゃ。
そこにあった雑巾で椅子を拭く。
雑巾が吸い取れなかった分の牛乳が床にパタパタと落ちてはね、郁也のズボンにシミをつくる。
いそいそと吸収力の弱い使い古された雑巾で片す。
すると突然髪を後ろに引っ張られた。
「う…っ」と声が出る。
「何ちんたらやってんの。啜れよ。」
耳元で冷たく低い声が聞こえる。
郁也の奥歯がカチカチとなる音が聞こえる。
椅子に投げつけるかのように押されて上体が崩れる。
反射的に腕を椅子についてしまったため黒い学ランが灰色に変色する。
啜る?この牛乳を?
雑巾で大方拭いたため啜るほどの量ではなかったが「はよ。」と宏行が急かすため、郁也は椅子に残る僅かな牛乳を舐めとった。
生臭くて埃っぽいにおいが口の中にまで充満する。
「はぁ?俺、なんつった。」
突然あきれたような声でそう呟かれた。
恐る恐る宏行を見上げる。
なんだかわからない、だが恐ろしいのは確かで、郁也の口元は震える。
違うの?間違ってるの?
「きいてんだろ。」
宏行は目元をピクッと動かし郁也の膝に蹴りをいれる。
これ以上宏行を怒らせてはいけない。
本能でそう思い郁也は慌てて答えた。
「す、啜れって…。」
「そう、啜れっつったの。お前が今してんの何。」
「い、いす、椅子を舐めて...」
「おかしいだろ。」
郁也がみなを言う前に宏行はイライラした口調で言う。
途端に足先をトントンと動かして床を鳴らした。
まさか
と思った。
「啜れるとこっつったら、なあ?」
落ち着いた声音で宏行が呟く。
郁也は目を見開き、信じられないといった表情を見せた。
「床に落ちたもん食べれるんだから、これぐらい余裕でしょお?わんちゃん。」
いつの間にか麗華も加わっていた。
ハッと我に返ってあたりを見渡す。
クラスメイト全員が、郁也を見ていた。
郁也のこれからのさらなる羞恥に期待するかのように、みな口元が笑っている。
やめなよ、
なんて声は一つも聞こえてこず、むしろ楽しみにしているような、そんな視線。
郁也はもう、何も考えられなかった。
ただ床にまかれた濁った牛乳を見つめ
これを啜ったら、もう今日はなにもされないのかな。
なんてことを思っていた。
その時、
ガラッとまた教室の扉が開いた。
池田であった。
いや、本来なら池田はもっと遅くに来る。
いつも池田は走って教室にやってくるほど遅刻魔だ。
しかし今日は違った。
「今日はみんなに知らせがあります。席について。」
そういって池田は皆を席に座らせる。
郁也もまだ完全に拭き取れていない椅子に仕方なく座る。
尻から太ももにかけてじわじわと湿ってくる。
気持ち悪かったが我慢して池田の方をみた。
池田が
「こっちへ。」
と手招きしたとき、チャイムが鳴った。
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