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第19話
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明日の初仕事に向けた準備をすべて終え、長坂店長の行きつけでもある、エスニック料理を主とするムーディな居酒屋で新入社員歓迎会を開くことになった。
飲み始めて1時間。従業員達も饒舌になり、部屋中に笑い声が響いていた。
また女性従業員達がいる方からは日頃の妬み嫉みを口々に愚痴りあっている声が聞こえている。
真尋と大雅は最初こそ、宴会の中心にいたものの、少し時間が経つと、中心からは外れ、端の方で昨年入社したという、ジロちゃんこと、洋二郎と、シマさんこと、嶋川、そして一昨年から店で修行しているという長坂店長の昔からの幼馴染みの弟である、ユキちゃんこと、雪と静かに飲んでいた。
「へーーーー!、まーちゃん、一人暮らししてんだ!!俺、彼女の家にヒモとして住んでるけど、もう見放されそうなんだよね〜、今度行かせてよぉ〜」
すっかり酔った様子の嶋川がもう1本よろしくお願いしまぁす!と声高々に言いながら、残りのビールをごくごくと飲み干した。
「おまえ、自分でいうかよ、ヒモとかさぁ〜、大雅くんも一人暮らし?」
被っていたローキャップを深くかぶり直し、洋二郎も嶋川に続いて、ビールを頼むと、「久しぶりにこんなうまい飯食べたわ」とお腹をさすりながら大雅の方へ体を向けた。
大雅は、ちらりと洋二郎を横目で見ながら、聞いていたんだか、聞いてなかったんだか曖昧な態度で「あぁ、まぁ」と目の前に置いてあったガパオライスに口を付けた。
その様子を頬づえを付きながら見ていた雪が、「大雅さん、無愛想っすね、なんすか、ハーフだから日本語わからないんすか」とクリっとした栗色の目をキッと音がなりそうなほど鋭くさせながら、先程、長坂店長にお酒代わりにね、と差し出されたオレンジジュースをズコーっと音を立て、吸い込んだ。
そこまで言われても、あまり反応をしない大雅に向け、さらに雪が口を開きかけた瞬間、先程まで女性従業員達の悩み相談を聞いていた長い髪を上に束ねた姿の長坂店長が「ちょっとぉ?そんな口の利き方ないんじゃない?ユキちゃん。」と雪の頭を力強く殴った。
「いってぇんだよ!くそ!はげ!」とすぐさま雪は反抗したものの、その後、長坂店長から殺気帯びた視線を受けると、きまりが悪そうに口をつぐんだ。
「でも、いっちゃんもちょっと反省すべきとこあると思うわよぉ、1年とはいえジロちゃんは先輩なんだからさァ。接客でそんなのやってたらお客様も来なくなっちゃうわよ?」
説教とまではいかないが、叱り口調で長坂店長がそう諭すと、大雅は「すみません」と小さく頭を下げた。
「でも、さっきまーちゃんが、「お客様来ましたよ」って言った時は普通に愛想よかったじゃない?アタシと同じように反応してたし。どうしてそんな何かに気を取られてますみたいな顔してんのよぉ」
腕で軽く大雅を小突きながら、大雅の見つめている視線の先を辿ると、長坂店長は、「あ〜」とすぐに感づき、大雅の斜め前にぐったりと座っている、大雅が気を取られている原因に声をかけた。
「まーちゃん、ちょっとぉ〜。ねぇ、大丈夫ぅ?」
長坂店長はそういって真尋の頬をぺちぺちと叩き、返答を待つものの、「んぅ〜?大丈夫ですぅよぉ〜、まだまだ行けますってぇ〜」と全く大丈夫ではない返答が返ってくるだけだった。
「真尋がこんなに酒弱いなんて知らなかったからガブガブ飲むなぁとは思ってたんですけど…。すっかり出来上がっちゃって。」
心配そうに真尋、大丈夫か?と大雅が真尋の肩を優しく叩くも、「まだまだのもぉ〜いっえ〜い!」と顔をふにゃふにゃにしただけでまともな会話ができない。
「殴れば戻るんじゃね。」とふてくされた様子だった雪がそう呟くと、大雅は雪にだけにしか聞こえないくらい低くてドスの効いた声で「ふざけんな」とガンを飛ばし、「真尋こんなんだし、もう家に帰らせてやりたいんで、抜けます。」と言うと素早く荷物をまとめ、ベロベロに酔った真尋の肩を支えながら「今日はありがとうございましたー!」と大きな声で、店から出て行った。
外はonlyと同様、新入社員歓迎会を開いてるところが多いため、どこも明るく光っていた。
「真尋、ほら、店出たから。しっかりしろ。」
再びさっきのように尋ねると、真尋はいよいよ酔いが回ってしまったようで、小さく呻き目を虚ろにさせながら、寄りかかっていた体を逸らし、勢いよく大雅に抱きついてきた。
「真、尋、」
「…帰りたくないよぉ…」
「え?」
「帰りたくない、1人になりたくない、今日、色々なこと、あって、頭、ぐるぐるで」
真尋はその薄い背中を震わせ、嗚咽をもらすと、大雅の肩口を徐々に濡らしていった。
「俺、どうにかなりそうなんだ、大丈夫って何でも言い聞かせてるだけで、ほんとは怖い、それに、俺、阿井を利用して、1人にならないように、誰かに、愛してもらいたくて」
でも、と言葉を続けながら涙でいっぱいの顔をあげ、大雅の顔を、切なげに見つめた。
「大雅じゃないと…だめ…なんだ、俺は大雅が…」
そこまで言うと、気を失ってしまったのか、大雅の背中に手を回したまま動かなくなってしまった。
「…っ、マジか。」
よかった、周りが明るくて。
大雅は心の底からホッとしながら、ゆでダコのように赤く染まった顔を全力で手で仰いだ。
この様子だと、明日になればきっと忘れてる。
そう思っても、今言われたことが何十回、何百回と大雅の頭の中でリピートされてしまう。
いやいや、と首をぶんぶん振り、なんとか理性を持ち直す。真尋を家に返してやらないと。
しかし、真尋に起きる様子など全くなく、返してやりたくても家の場所がわからない。
ー俺の家、に連れて帰るか?
もちろん下心はない。
いや、なくはない。
本音を言えば、ぐちゃぐちゃになるまで真尋を抱き潰したい。
でもそれはだめだ、そうしたら、また俺らは離れ離れになってしまう。
今度こそ、俺は…
寝息を立てながら気持ちよさそうに眠っている真尋の頬に触れるようなキスを落とし、これ以上はしない、と自分に誓を立て、道の脇に止まっていたタクシーにヒラヒラと手を振った。
「ここまでお願いします」
家に着いたら、真尋は俺のベッドで寝かせて…俺はリビングのローソファで寝るか。
これ以上はしない、そう胸に誓ったら変な気は起きず、確実に変われてる自分に、小さくガッツポーズをし、流れる夜の東京の街を眺めながら大雅は膝の上で寝ている真尋の頭を子供をあやすかのように優しく撫でたのだった。
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