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確かな証を、何か一つでも持っていたい
婚姻届も、指輪も無理なら言葉だけでも良い
貴方の隣りで生きて行くための、その資格を
僕にくれませんか?
少し大きな鞄を持ち、タクシーに乗り込んで行先を伝える。
僕の願いは、砕けて散った。
でも彼の答えを分かっていたから、僕は荷物をまとめていたのだ。
そしてそれはやっぱり正しかった。
でももしかしたらなんて、そんな事を考えていたのも事実で。
片付けてみると、一緒に暮らしていた部屋にはそれ程僕の物は無かった。
二人の思い出の物はもっとなくて、二人で撮った写真は一つもなくて、虚しい現実に涙が零れた。
「どうして今更…今まで上手くやってこれただろう。そういうものにうんざりしていたから、だから俺はお前と一緒にいる事を選んだんだ」
粉々に打ちのめされ、言葉も出なかった。
彼がそういう物に心底うんざりしている事は分かっていた。
恋愛結婚をして、幸せしかない未来が待っているはずだった彼は、たった二年で離婚した。
結婚してから色々と擦れ違いが生じ、不仲になり、そして奥さんが浮気をしてしまったそうだ。
今にも泣いてしまいそうな、そんな顔で堪える彼の傍にいたいと思った。
知人を通して知り合った僕達は暫く友人関係だったけれど、密かに彼を好きだった僕はゲイだと打ち明け彼に告白をした。
いくら彼が弱っている状況だといっても、最悪な結果しか想像していなかった。
でも僕の想いは受け入れられ、信じられないことに彼の恋人になることが出来た。
彼は勿論ゲイではない。
それでも僕を受け入れてくれた。
でも、彼の本心はどうだったのだろう。
彼にとって、恋人として心を通わせるなんて事はもうどうでも良かったのだろうか。
男とのセックスに抵抗を見せる事はなかったけれど、心はそうではなかったかもしれない。
妥協や我慢の伴うセックスだったのだとしたら悲しいし、申し訳ない気持ちになる。
より深く強いもので結ばれたはずの二人は別れ、結局彼は一人になった。
それは彼にとってとても辛く寂しい、怖い事だっただろう。
だから彼は僕を選んだだけだったのかもしれない。
いつでも終われる、これ以上のものを求められる事はない。
それだけの理由で。
「…そういえば、好きとか愛してるって、言われた事無かったな」
好きだと言えば、笑って俺もと頷いてくれる。
愛していると言えば、抱き寄せて俺もと頷いてくれる。
貴方は、はなから僕に何も与えるつもりなどなかったのかもしれない
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