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片恋の罠・1
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オレの恋人久保田圭は、うちのクラスの担任教諭で、野球部の顧問でもある年上の男だ。
いや、「恋人」だなんて思ってんのは、オレの方だけかも知れねぇ。騙して挑発して罠にかけて――薬を盛って犯すとか、普通の恋人はしねぇだろう。
以後も、そん時のハメ撮り写真を使って脅して、ずっと関係を続けてる。
アイツの誕生日の夜から数ヶ月。部活もあるから、毎日とか毎週とかはさすがに無理だけど、月に何度かはセックスする仲だ。
なのに、何度体を重ねても、ちっとも近付いた気がしねぇのは、なんでだろう?
もう薬を盛ってもねーし、縛り付けてもねーんだけど。脅して押し切ってって関係は、結局無理矢理と変わんねーんだろうか?
それとも、久保田自身が後悔してるからだろうか?
「永井君、もうやめよう」
ひとり暮らしのアイツの家に押しかけるたび、震える声でそう言われる。
「やめるって? 煙草ならもうやめましたけど?」
ニヤッと笑いながらそう言って、遠慮なくベッドに座るまでがいつもの流れだ。
「違う」
もどかしそうに久保田が首を横に振るのも、いつもの反応。
「じゃあ、ビリヤードやめて、野球にしましょうか?」
そう言いながら手首を掴み、オレの隣に座らせると、久保田は考え込むように黙ったけど、簡単にうなずいたりはしなかった。
煙草を吸うフリをして、久保田の注意を引こうとしたのは、もう随分前のことだ。
勿論オレだってスポーツ選手として、煙草の煙がよくねぇっつーのは知識としてあった。くゆらすだけでも結構鼻に来て、長時間は吸うフリできねーなと思った。
幸い、久保田は見つけるとすぐに奪って来たから、その不自然さには気付かなかったみてーだ。
『煙草はダメだ』
オレのことを考えて、真剣に叱ってくれる久保田に、笑みが漏れる。
好きだと思った。手に入れてぇ。オレのことだけ、ずっと考えてりゃいーのに、って。
けど、久保田は教師で――うちのクラスの担任かつ、部活の顧問で。高校生のオレも、野球部員のオレも、多くの生徒の中の1人にしか見てなかった。
問題児を気取ってみても、結局は生徒と教師の関係から逃れらんねぇ。
どうすりゃオレだけを特別に見てくれんのか、悩んでた時に手助けしてくれたのは、遠方に住むイトコだった。
この年じゃ買えねぇ煙草を、オレにくれたのもそのイトコだ。
「これ、あんま服にニオイつかねーぜ」
って。
結局、2本しかその煙草に火を点けることはないまま、久保田に奪われちまったけど、あれがきっかけで罠にかけられたも同然だから感謝はしてる。
「隼人、余ってるヤツだけど、これやるよ」
そんな気軽さで、そのイトコが次にくれたのは、粉砂糖に似た無味無臭の睡眠剤。
いや、もしかしたらもっとヤバい名称のモノだったかも知んねーけど、1個しかなかったし、もう個包装も捨てちまったから、調べようがねぇ。
それを、隙を見て久保田のケーキの上に振りかけて――寝てる内に裸にして縛って自由を奪い、目を覚ましてから体を奪った。
1度奪えば満足するかもって思った時期もあったけど、それは結局勘違いだったみてーだ。抱けば抱く程執着が生まれて、恋しい思いも募ってく。
お節介で、鈍感で、お人好しで、ちょっと抜けてて、オトナのくせに頼りなくて――あんな年上の男の、どこがいいんだって自分でも時々思う。
けど、好きになんのに理屈はいらねぇ。
顧問就任の挨拶に来たグラウンドで、実演として久保田が投げた数球のボールに、オレはズドンと撃ち抜かれた。スゲェってビックリして、そんで、コイツの指導を受けられることを喜んだ。
近付きてぇと思った。手に入れてぇと思った。
最初は、憧れもあったかも知れねぇ。先に、担任としてのアイツの顔を見て、頼りなさそうだなとか思ってた分、その意外な投球が強く印象に残ったのかも。
けど、今更恋に落ちた理由を分析したって、好きな気持ちが薄れるなんてことはねぇ。
恋が冷める可能性も、なさそうだった。
今日もオレは秘密の恋人を校舎の屋上に呼び出して、キスを迫り、関係を迫る。
「先生、今日、行っていーだろ?」
屋上の給水タンクの陰に久保田を押し込めて、覆い被さるようにキスをしながら、その股間に手を伸ばす。
オレとのキスで、少し反応見せてんのが嬉しい。
ぎゅっと掴むと、「んっ、やっ」って甘い声で啼かれんのも嬉しい。
まあ、教師がスラックスの股間を濡らして歩く訳にもいかねーだろうし。腰を引かれた時点で深追いせずに放してやるけど。代わりにキスはやめてやらねぇ。
給水タンクのフェンスに押し付け、逃げらんねぇようにして、何度もキスを繰り返す。
始めの頃はオレにされるがままだった久保田も、最近は少しオレの舌に応えてくれるようになってて、それがまた嬉しかった。
ふふっと笑いながら頬を撫で、短く整えられた久保田の柔らかな髪を撫でる。
「永井君、もう、やめよう……」
うわ言みてーに淡く懇願されるのも、慣れれば平気で聞き流せる。
縋るようにオレのシャツを掴んでキスしながら、「よくないよ」なんて言ったって、説得力がねぇ。
自分でも、空しい事繰り返してる自覚はあったけど、だからって、やめようなんて思えなかった。今、この腕の中で震えてる年上の男を、ベッドの上で奪いたい。
ビリヤードは、白い手玉を突く角度と強さを計算しながら、順番に色玉を落としてく知能ゲーム。
対戦の時は対戦相手の癖や心理、思考までも計算し、自分の勝利へ誘導する。
この年上の教師を9番ボールのように堕とすプレイは、ビリヤードの方がふさわしいと思ってたけど――本人がやめてぇっつーなら、そう、いっそ野球でもイイ。
バッターボックスは、久保田のひとり暮らしのマンションで。
ピッチャーライナーを何発も繰り返し、オレのバットで打ち崩してやるのもイイと思った。
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