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台風の夜 3(おしまい)
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外の荒れた天気とは裏腹に、藍川は穏やかな表情で語り終えた。
「私ったら、長々とつまらないお話を聞かせてしまいました」
「つまらなくはなかったよ。
前の家とは今でも付き合いがあるの?」
「まったく。会いたいとも思いません。
18年前にあの家を出たきりです」
「18年前って言うと、綾倉さんがちょうど今の俺と同じ年だ」
浅黄が想像もつかないという風に言った。
「そうですね。
あの頃は、先代もまだお元気でいらっしゃいましたし、淳史様もいらっしゃって、今よりもにぎやかでした」
淳史は、綾倉よりも6歳下の弟で、綾倉よりもおっとりした人柄だった。
一度、綾倉の姉と共に浅黄を見に来たことがあったが、浅黄に対して好意的に接してくれた。
「綾倉さんはどんな感じだった?」
「今と変わらず、いつも難しいことを考えていらっしゃるような感じでした」
「若者らしくないね」
そう言って浅黄は笑った。
「当時から、難しいことを考えないといけないお立場でしたから。
あれから、このうちもいろいろありました」
綾倉を援護した後、頭の中で、この18年を思いめぐらせた。
「特に綾倉さんにはいろいろ驚かされたんでしょ」
「本当に。もちろん、浅黄さんのことも含めてですよ。
でも、ドラマを見ているように楽しませていただいてます」
そう言って、笑った後、「旦那様には内緒ですよ」と付け足した。
綾倉が玄関を入ると、藍川に続いて浅黄が「お帰り」と迎えた。
「どうした」
綾倉はそっけなく浅黄に向かって言葉を発したが、藍川の目からは、綾倉がうれしい思いが出ないように自分を抑えているのが良く分かった。
「台風だから仕事が休みになった」
「まるで小学生だな。
風は強いが、雨は今はそれほどでもない」
ニュースでは交通機関に影響が出ていることが伝えられていたが、車通勤の綾倉には関係のない話だった。
「すぐにお夕食の準備をします」
そう言って、藍川はキッチンに向かいかけ、ふと、旦那様がタオルを出す必要があるほど濡れていたかどうか確かめようと振り返った。
綾倉と浅黄がちょうどキスをしていたところだった。
慌てて前を向いた。
「たまにはこういうのもいいな」
綾倉の言葉に浅黄が「そうだね」と答えているのを、藍川は背中で聞いた。
藍川の知る18年間で、綾倉は今が1番幸せそうだった。
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