アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
past:10
-
「ハタケ君……あの、これ」
トイレから教室に戻る途中に呼び止められた。その後強引に手をひかれて階段の踊り場につれてこられた僕は、ピンク色の封筒をみて、またかと思う。
モリがユキに話かけてから僕たちはいつも一緒にいる仲間になった。
モリと楽しそうに話しているユキを見るのが好きだ。それに傍にいれば遠くから見つめる必要がなく、モリにからかわれることもなくなった。
そしてシュン、ユキと呼び合うからから一番仲がいいのが僕だと思われたようだ。僕に言わせればユキと一番話しているのはモリなのに。
女子は使えるものは何でも利用する。だから僕はユキ宛の手紙や贈り物を預かる羽目になる。
「受け取ってくれる?」
受け取るも何も、本人に渡せばいい。何故僕を経由するのかわからない。
『征広はいらないものはいらないってハッキリ言うからさ。怖いんじゃない?』モリはそう言った。僕を経由すればユキの手元には必ず届くと思えるらしい。読みもしないでその場で突き返されるよりずっとマシだそうだ。
僕はこのラブレターの受け取りと配達はどうにも好きになれなかった。何故かいつもイライラする。
「渡しておくけど、読む読まないを決めるのはユキだから、僕にはどうにもできないからね。そそれでもいいなら受け取るよ」
この子にしたら100t以上の重さがあるだろう小さい封筒に手を伸ばす。向かいに立つ顔も知らない子が僕に言った。
「木崎君にじゃなくて……ハタケ君に」
その子はそう言って階段を勢いよく登って行った。信じられない僕は受け取ってしまった手紙を見て後悔する。いちいち嫌そうに僕の手から封筒をつまむユキを思い出していた。
読むだけ読んでやれよ、なんて軽く言っていた自分に嫌気がさす。知っている子ならともかく、名前も顔もしらない誰かの想いなんて、僕には重すぎる。
「先に食べちゃってたよ。なげ~トイレだな……さては!」
小学生みたいなことを言うモリに少しだけ気持ちが軽くなる。「ハタケ大好き」は恥ずかしいけれど、なんていうことのない会話に助けられることも多い。
「弁当を前にして、よくそんなこと言えるね」
明るい自分を装ったが、少しわざとらしかったのかもしれない。シュンがさぐるような視線をよこす。当然のことながら、モリはまったく気が付いていない。この鈍感さに助けられる――もう一人は鈍感という言葉とは無縁
「久田は?」
「今日は美野のほうだ」
美野に彼女ができた。それで弁当タイムはモリとユキと僕になってしまい、久田は美野と僕たちを日々行ったり来たりしていた。
「仲よさそうだもんね」
「ハタケ、そりゃあ付き合いだした時は仲良くないと不味いだろう?」
「昨日「菜緒」って美野が彼女を呼んでいた。なんか優しそうでちょっと格好よかった」
「美野みたいのがタイプなのか?シュンは」
普通男にタイプを聞く時相手は女だろうと思う。ユキは時々よくわからないことを言ったり、僕に聞いたりする。
「タイプって、美野は男だよ。でもあの眼鏡と髪形を変えたらモテるタイプだよね」「あいつは素材がいいからな」
ユキは面白くなさそうにボソっと言ったけれど、僕からすれば素材も全部ユキのほうがいいと思う。そのまま言ってしまいそうになって引っ込める。
「本好きな男は、本ばっかり読んで雑誌に手を出さないんだよ、だから見た目に頓着しなくなるんじゃない?俺はそう思う」
モリの自説はかなり偏ったもので、そうだねなんて絶対言えない。
「モリ……俺も読書部なんだけどね」
頬杖をついてモリを覗きこんだユキはドキっとするような表情を浮かべていた。好きなこにはこういう顔をするのかもしれない。自分の心臓が急に活動をはじめて狼狽える。
「ちょっと!なんでそんなエロい顔してんだよ!征広は違うよ。俺ずっと格好いいって言ってるじゃんか」
ユキはそのまま僕に視線を戻した。モリの言うエロ顔のままで……逸らしたほうがいいのはわかっているのに僕は魅入られたまま何もできなかった。盛大に鳴り続ける鼓動がユキに聞こえてしまう。
「シュン?」
昨日美野が彼女を呼んだみたいな優しい声。その声が今僕の頬をふわりとすべる。実際に触られたようにビクっとする僕にユキは微笑んだ。
「今日一緒に帰るからな」
テスト準備期間で部活は自主練のみ。他に用事もなく言い訳にできる材料はなかった。帰る道すがら聞かれるのだろう、昼休み何かあったのか?と。
そうなったら僕は手紙のことを隠しておけない。そして今まで「読んでやれよ」と無責任に言い続けたことを謝ることになる。
こんな表情で見詰められたら抵抗できない……僕は一体何に抵抗すると?
浮かんだ考えは、気付かないほうがいい種類のものだと直感したから擦り抜けていくに任せた。
……知らない方がいいことだってある。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
18 / 48