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ユキと並んで駅に向かい、どう切り出したものかと考えていた。ひょっとしたら忘れていてくれないかなと期待し始めた矢先に先手を打たれる。
「昼、また誰かに何か渡された?」
そう、そのとおり。たぶんユキはまた言葉がたくさん詰まった小さい封筒を僕が預かったと思っている。
そのままユキに渡してしまったら?
すぐにそのバカげた考えを捨て去る。よく知らない子だったけれど人にラブレターを書くなんて勇気や期待、そして不安みたいなものが沢山あったに違いない。それを他人に読ませるのは酷いことだ。
「あ、うん。トイレの帰りに踊り場に連れて行かれて……そこで」
「俺に直接言ってこいって話」
それは同感だったけれど、今回は違うんだ、僕が貰った。
「あっ!」
「え?なに?」
突然の僕の声にびっくりしたのかユキが立ち止まる。
ポケットに押し込んだその手紙は5限の途中机の奥にそっと置いた。帰る時に教科書と一緒にカバンに潜り込ませるはずだったのに、すっかりその存在を忘れて机の中に置きっぱなしだ。誰かが机の中をみるとは考えられないけれど絶対とは言い切れない。
まだ僕も読んでいないあの手紙が、誰かの目に触れるのは不味い。
「ごめん、手紙机の中に置きっぱなしだ。とりに戻るから先に帰って」
学校に向かって振り向いた僕の腕が後ろからがっしりと掴まれた。
「俺もいくよ、当然だろ?」
僕は曖昧な笑みしか浮かべられなかった。
「お前らオホモダチだろ?」
教室に誰もいないことを期待したのにまだ残っている生徒がいる。おまけに教室の中はあまり楽しい状況とはいえない雰囲気だ。
少し後ろを歩いていたユキを振り返ると、僕の表情をみて眉をひそめる。
「黙っているってのはさ、そういうことだってことだろ?認めれば?」
僕の隣に来たユキにも聞こえたのだろう。「まったく」と呟きそのまま教室のドアを開けてしまった。仕方がないので僕もあとに続く。
「杉下?なにデカイ声だしてんの?廊下に響いているぞ、お前の声」
杉下は忌々しそうにユキに視線を投げかけ、机にひょいと座った。人を小馬鹿にしたような姿を目にして、僕たちがなぜそんな態度をされるのか理解できない。
教室にはもう二人いた。林原と生田は仲の良い友達同士で、僕とモリみたいに小さい時からの友達なのだろう。さっき杉下が言っていた「オホモダチ」とはこの二人に投げつけていた言葉のようだ。
「生田、こいつになんか言われた?」
黙って首を横に振るけれど、生田の表情から不愉快なことを言われていたのは容易に想像できる。
「どうせ、杉下が下衆なお節介を焼いたんだろ?」
ユキが肩をポンと叩くと、生田はあきらかにホッとした顔になり、そのあと暗く曇った。「大丈夫だ」そういいながら生田の肩から腕をさするようにして触れたあと、机に座って睨みつけている杉下の前に行く。
「オホモダチってなに?」
僕が聞いたことのない、冷たいユキの声。僕は入口のドアを背中ごしにそっと閉め、もう人がこないことを祈った。
ユキと杉下が向かい合っている右側に立っているから、人を馬鹿にしたような杉下の顔と、無表情に鋭い視線を放つユキの二人の姿が見える。殴り合いの喧嘩になったら、僕で止められるだろうか……この重い空気のせいで息をつめてしまう。
「こいつらホモだろ?イチャコイてるじゃん。本当のこと言って悪い?おまけにこいつら否定しないんだぜ?俺がもしホモ?って聞かれたら大否定するし。有罪じゃん」
「ゲイだったら有罪なわけか、お前のたりない頭では」
「は?木崎にそこまで言われる筋合いはないぜ?あ、もしかしてこいつらのこと知ってるってこと?マジでビンゴじゃん」
ユキの後ろ側に立っている生田達の顔は蒼白だった。たぶん杉下の言うことは本当のことなのだろう。
生田達を見ていた僕の目の端にユキが動くのが見えた。とっさに止めようと一歩踏み出した僕の身体は完全に固まった。
僕は目の前で起こっている事が信じられなかった。予想を超えた出来事に呼吸さえ忘れて立ち竦むことしかでき……なかった。
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