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ユキが杉下の頬に手を伸ばしそっと撫ぜたあと、手のひらで後頭部を支えた。机に座っていて咄嗟に足を踏ん張れなかった杉下は、自分の胸元に両こぶしを握る。
ユキは杉下に口づけた。
唇が触れ合うだけのキスではない。それくらい僕にだってわかった。杉下の口内でユキが蠢いている。
後頭部をがっちり固定され足も使えず、杉下は何もできなかった。胸元の拳をユキの胸に押し当てて離れようとしても逃れることができない。
そのうち、その拳から力が抜けダラリと脇におりた。ユキはいたぶるように唇を動かし続ける。真横からその姿を見ることになった僕は、目の前の光景に頭が痺れたままだ。
なんで?なぜ?なに?どうして?なんで杉下に?
男相手にキス?キスは好き同士がするものだろう?ユキ……なに?なんなのこれは!
「ふ…あ」
杉下の鼻にかかった声とともに口の端から唾液がつぅっと漏れ出た。
【 ガタガタ 】
僕が床に崩れたせいで、机とイスが音を鳴らした。その音が合図のようにユキが杉下の口を解放する。はあはあと荒い息を吐き出している杉下の股間をひと撫でしてニヤリと微笑み、ユキは僕に向かって歩いてきた。
「大丈夫か?シュン」
倒れた机とイスを元に戻し、僕の脇に手を差し入れて椅子に座らせると手の甲で僕の頬にそっと触れた。優しい顔で僕を気遣い、さっきまでキスをしていたなんて思えない、いつものユキの顔で。
「痛くないか?大丈夫か?」
「……うん」
痛くはなかった、でも大丈夫じゃなかった。あの唾液の筋が何かを僕に悟らせたのだ。めまぐるしく思考が頭のなかで行ったり来たりを繰り返し、思わずユキの腕を掴んでしまう。
溺れてしまいそうだった、誰かに助けてほしかった。助けてくれるならユキがいいと……思った。
「大丈夫だから……シュン、大丈夫」
ユキがいてくれてよかった。でも目の前のユキは僕の知っているユキではない。割り切れずにドロドロと溢れ出すものがある。
「杉下、俺のキスが巧すぎて感じただろう」
杉下はさっきまでの威勢の欠片もなく、ユキに見据えられて目を逸らす。
「俺は性別のボーダーがないから、男にだってキスはできる。だからお仲間はわかるんだぜ?
生田たちは違うからな、俺とは違う。わかったか?」
杉下は何も言えず固まったままだ。
「わかったのかって聞いたんだ。俺は」
「……わかったよ」
「じゃあ、帰れ」
「言われなくても帰るよ!」
杉下は自分の席に飛びかかるように進み、カバンをつかんで教室を出ていこうとした。その背中に向かってユキは静かに言った。
「お前、今回のように人をバカにしたり、ヘタな噂を広めたりするなよ。もしそれが俺の耳にはいったらな」
ユキはわざわざ杉下の後ろにいき、そっと肩に触れると杉下は飛び上がった。
「男にキスされて完勃ちになったこと、ばらして広めるからな、俺は本気だ」
ユキはもう用済みだといわんばかりに背中をぞんざいに押すと、真っ赤な顔で杉下は教室を出て行った。
「木崎……ごめん」
ユキに声をかけた生田と林原を見て僕はそっと教室をでた。
身体の中で爆発しそうに鼓動が早い。
一番近いトイレに入り、冷たい水で顔を洗う。
いったい、あれは何だったんだ?洗面台に腕をつっぱり自分を支えながら考える。あの場を収める為に、あんな方法をとるなんて。絶対僕には思いつかない。
あんな風に、当たり前のように、誰にでもユキはキスができるってことなのか?
僕の動揺や早鐘のような鼓動……これはいったい何なんだ?
答えは見つからない。
学食にある自販機でコーヒー牛乳を買ってポケットにいれたあと教室に戻った。廊下で教室の中を窺う。
「どうせ生田のことだから、違うと否定したら林原が傷つくと思ったんだろ。でも、そんなことで傷ついてたらこの先どうする?持たないぞ」
「恥ずかしいことをしているわけじゃないのに。でも人に言えないって、普通じゃないってことだよ。それを杉下に言われて何も言えなくなっちゃった」
「これから一生つきまとう。それはもう受け入れるしかない。誤魔化さず本気を出すというなら両親にカミングアウトする、そんな時だろう?
あんなゲスな相手に使うな、もったいない。AVのDVDをカバンにいれとけばいい。今回みたいなことあったらニヤニヤして貸してやるぞって言うとかな。事実を言わないことは否定とは違うよ。俺はそう思う」
「木崎……ありがとう」
生田と林原の力が戻った声が聞こえてきたので、僕はそっと教室に入った。自分の机だけを見て本来の目的だった手紙を回収してカバンにおさめる。
「ユキ、先に帰るね」
「いや、俺も行くよ」
正直このあと、この手紙の話はしたくなかったから、できれば一人で帰りたかったのに。
「あの……木崎?」
林原が何か言いたげにユキを見る。ほら、やっぱりまだ話は終わってない、先に帰ろう。
「シュンは大丈夫だ。軽々しく人に言触らすような人間じゃないよ」
教室を出ようとした足が止まる。
「いや……そうじゃなくて、木崎のこと……ハタケ君は知らなかったんでしょ?」
僕の情報処理能力はもう限界だった。
「正直、何がどうなっているのかよくわからない。あ、でも君たちのことは何も知らないことにするよ。だから大丈夫。僕とモリみたいな仲のいい友達だって思ってたしね。杉下が言うようなこと、僕は一度も感じたことなかったよ」
「ありがとう、波多家君」
お礼を言われても困る。
「シュン、帰ろうか」
一人で帰る選択肢はないようだ。僕はこっそりため息をついた。
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