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執事。エドワードの過去
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「っ‼︎」
「エドワードさん?」
私がどんなに変わろうとも、大切な存在を見つけようとも、良い行いをしようとも、その過去が私の中から消えることはないのだ。
真夜中私はまたあの夢を見た。
月明かりの中、人々の温かく真っ赤な血を求めて歩いたあの夜のことを。
音が聞こえのか、ランプを持ったライル様が心配そうに私の部屋を覗き込んでこちらを見ている。
「、申し訳ございませんライル様。お休みになられていたのに」
「そんなことより、大丈夫ですか?」
ベッドから出た私をますます心配そうに見つめるお顔がランプに照らされて、私はその瞳から目をそらしてしまいました。
「大丈夫でございます。ですから、」
慌てて笑顔を繕うと、見透かされたようにライル様は私の夜着の裾を掴まれました。
「嫌です。」
「ライル様…」
その瞳は、アリアそのもの。
あの日、血まみれの私の腕を掴んで離さなかったあの瞳。
『離せ』
『嫌よ。』
『…死にたいのか』
『死にたくはないわ、でも、その人だって死にたくないのよ。』
目の前に横たわってピクリとも動かない男を見て、漆黒の髪を持った美しい少女が、顔に似合わず全身で、白い仮面で顔を隠した血まみれの男の腕を掴んでいる。
男の手には血に濡れた剣がある。
『なんで人を殺めるの』
『…』
『あなた最近噂の切り裂きジャックでしょ?』
少女は華奢な割りには力が強いのか、一歩も引かない。
『あなたに切られた人々はみんな、死にたくなんてなかったのよ。家族や愛する人、大切な人、幸せな未来が待っていたはずなのよ。なのに理由もなくその未来を奪われるのは、とても辛いことだわ』
それまで少女の話を聞いていた仮面の男は、持っていた剣を少女の喉に向けた。
『理由などない。ただ、教えられて来たからそうしているだけだ。』
『あなたの気持ちは、そこにはないの?』
『必要ない』
『…誰よ』
俯いた少女に、仮面の男は剣を振り上げた。
『誰があなたの心を奪ったのよっ‼︎』
『っ‼︎』
剣が切り裂く寸前に、少女がそう叫ぶと同時に仮面の男の腕に小さなナイフが刺さった。
剣が高い音を立てて地面に転がる。
『アリア様』
物陰から現れた大柄の男が、少女の前に立つ。
『…その男、気配を感じなかった』
『フラーさんは私の執事。必要ならあなたを殺めることだってできる。』
少女の言葉に、仮面の下で男が口の端を上げて笑った。
『なら、そうしてくれないか。』
『アリア様、』
『嫌よ』
『…なぜ』
先ほど殺されかけたはずの少女は、恐れることなく仮面の男の前に立つ。
『あなたを殺めることで、フラーさんの心が奪われるから。たとえあなたがどんなに酷いことをしてきたとしても、それと同じことをフラーさんにさせることは出来ない。それに』
少女の白く細い腕が伸び、男の仮面を外した。
『…あなたはきっと取り戻すことができるはずよ』
月明かりの下に美しく冷たい瞳をした青年が現れる。
『その捨てかけた命、いらないなら私にちょうだい』
「…頑固なところまでよく似てらっしゃる」
「え?」
私の言葉にライル様は目を丸くされると、すぐに柔らかく微笑まれました。
「わかっているのなら、諦めて下さい。僕はしつこいですよ」
その笑顔だけで、私が救われていることをあなたはご存じないのだ。
「ジャックさん。よく眠れるおまじないを」
ライル様は私を安心させるように、私の本当の名を呼ぶ。
理由を聞かないその優しさに、私はまた甘えてしまうのです。
「おまじない、ですか?」
「少し屈んで下さい」
「っ…」
言われるままに屈むと、ライル様は私の頭をフワリと抱き額に柔らかな唇を当て囁かれました。
「…ジャックさんが幸せで楽しい夢を見ることができるように」
「っ‼︎」
『あなたが幸せで楽しい心を取り戻せるように、』
『私が幸せを教えてあげる』
「僕が眠るまで見ていてあげます」
アリアが教えてくれた幸せは柔らかく儚く、そして強い。
この方が私の幸せの全てなのでございます。
「安心して眠って下さい」
罪深いはずの私が、こんなにも幸せで良いのでしょうか。
「おやすみなさい、ジャックさん」
この方の優しさに触れる度、あの記憶の中の人々から、許してもらえたように思えてしまうのです。
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