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俺は先に施設に戻り、部屋へ閉じこもった。
部屋の一番端へ身を寄せて何度も深く呼吸をする。
あの感覚は?
俺は、一体誰だ?
血に何か記憶を握る鍵がある?
「…思い、出したくない。」
思い出せばもっと強い恐怖に襲われる気がする。
今更、恐怖なんて感じたくなかった。
何もかも もう諦めたつもりだったのに。
「ユーキ君。」
「…っ、…要…先に帰って、…ごめん。」
「あはは。ユキ君走るの早いなぁ。僕、全然追いつけなかったよ。今度は僕の方が先に走るからね!」
「俺、…」
「ユキ君。そんな顔しないで。ほら、ニコーッて。」
部屋の入口に立った要は俺に血が見えないようにフードを頭にかぶっていた。
首をかしげて笑うと、指で口角を上げて見せる。
要は明るい。
俺はそんな風に笑えない。
「笑い方が、わからない。」
「…忘れちゃった?」
「笑い方も、泣き方も、怒り方も。全部忘れたはずなのに怖いって気持ちだけは残ってた。」
「そっか。怖かったね、もう大丈夫だよ。」
要の小さな手が俺の頭に触れて、ワシャワシャと髪を撫でた。
荒く、でも優しく。
「僕がユキ君を笑わせてみせる!嬉しくて笑って、嬉しくて泣いて、大切な人のために怒れるように。僕がぜーんぶ教えてあげる!」
「…え、……」
「…ユキ君が怖くないように、僕がずっと守ってあげるからね。もう怖くないでしょ?」
「ぁ、……ん、怖くない。」
記憶が無くても。
思い出せなくても、いつか知ることが出来る。
俺の隣には要がいる。
俺は1人なんかじゃなかった。
***
「昔の探偵さんはすごく無口で、怖がりで…それに笑えなかったんだ。」
「…今とは違って?」
「そう。僕らは嫌われ者だったから、きっと周りがそうさせちゃったんだよ。笑う権利すらなかったのさ。」
「…かわいそう。」
「そうだね。でも、今は笑えるしお話も上手くなった。誰だってそんな昔があったりするんだ。」
「要さんは、…昔の探偵さんのこと、どうして嫌いにならなかったんですか?皆…嫌いだったのに。」
「んー、…今だから言えるけどあの頃の僕は人に好き嫌い言えるほど偉い人じゃなかったんだ。僕自身、探偵さんより嫌われ者だったからね。
あ、探偵さんには秘密だよ。」
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