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26(蘇芳)
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いつも通り執務室で仕事をしていると、コンコンとノックの音が部屋に響いた。すぐに、「陛下、木賊です。例の彼についてご報告が。」と扉越しに声をかけられる。〝例の彼〟の言葉にドキリと胸がはねたのを感じながら、入れと返事をすれば扉からさっとあらわれた木賊から、発熱した日からなかなか目を覚まさなかった風音が目を覚ましたと、報告を受けた。
あの日から言いようのない想いに悩まされていた俺は思わず椅子から腰が浮かせてしまった。
そんな俺の姿を見て、木賊は目を見開いた後クスリと笑いまた、真剣な表情に戻る。
「 わかってると思うけど、目を覚ましたからといって本調子じゃないからね。顔色も悪かったし何よりとてもまいっていたよ。精神的にかなりきているみたいだ。しばらくはそっとしておいた方がいい。」
硬い声音でそう言った木賊に、俺は風音の姿を思い出す。
あのどこまでも気の強く暴れていた風音が、、と思うと心臓のあたりがギュッと痛みをうったえた。
なんの痛みなのかよくわからないまま顔をしかめれば、どう受け取ったのか、木賊が溜息を吐き「絶対わかってない、、、。」とぼやく。
「 いいかい?君の存在がかなり彼にとって精神的負担になってる。まあ、当然だよね?状況がいまいち理解できないままいきなり食うだのヤるだの聞かされて?、、、で実際ヤられかけて?そりゃ倒れるさ。わかってないようだからもう一度言うよ。絶対っ!安静にしてそっとしておく事!今までと態度が違うようだからこれ以上酷い扱いはしないって信じてるからね?ちゃんと守ってよ?」
眉根を寄せながらそう言う木賊に俺は、「 あぁ、、。」と小さく返事を返した。
どうやら風音はあまりいい状態ではないらしい、、、それも全て自分のせいで。
その事がやけに俺の心に重くのしかかった。
今まで、人間だろうが人魚だろうが、相手が泣こうが喚こうがどうでもよかった。 自分の行いで傷つこうが別に気にもしなかった。
それ程他人に興味などもてなかった。
木賊のように大切だと思える奴も数人はいるが後は割とどうでもいい。
俺は国とその国民のためにこの持って生まれた力を使い使命を全うするだけだと思っていた。
なのになんなのだろう、この感情は。
風音に会ってからなんだかずっと落ち着かない。
ふとした時に思い出してはあの不思議な輝きのある瞳にとらわれる。
ジワジワと体を心を支配されていくような、、そんな自分が自分で無くなるようなそんな感覚に、この俺が恐怖すら感じているのだ。
その事実に苛立ちが募るのに、思い出す事がやめられず、名を聞けば心臓がはねる。
顔が見たいと思い、次にはまたあの髪に、肌に触れたいとすら思う。
自分自身がわからない。
何がしたいのだ?風音をどうしたいのだ?
ここ数日その事ばかりが頭の中でグルグルグルグルと駆け回っている。
仕事をしていないと一日中でも考えていそうで気がおかしくなりそうだった。
しかし、考えずにはいられないのだ。
黙り込んだ俺を見て、木賊は何故か柔らかく微笑んだ。
「 早く気づくといいね、、、?」
「 何にだ?」
「 さぁ?」
何がおかしいのかクスクス笑う木賊に俺が怪訝な眼差しを
向けた時、部屋の扉をコンコンと誰かがノックした。
「 陛下、私紫安(しあん)でございます。西地区の水路拡大の件でご報告が。」
名前を聞いた途端、木賊の瞳が冷たく鋭くなった。
「わかった、入れ。」
「失礼致します。」
そう言って入って来たのはこの国の大臣の1人、紫安だった。
紫色の髪や鱗を持つ人魚で、身体中に無駄な脂肪がついていて。ブヨんとした腹や薄くなった髪が特徴だ。
基本的に容姿や体格に優れているはずの人魚なのだが、、、。何故ここまで太れるのかと思ってしまうような体型をしている。
仕事はできる方なのだが、面倒ごとを嫌い人に押し付けるくせにしくじれば率先して叩くようなそんな奴だ。
あまりいい性格とは言えない。
俺はこの男をあまりよく思っていなかった。
そして、木賊はこの男が心底嫌いだった。
理由はこの男が人間を嬉々して抱き食い、その味を俺に教えた張本人だからだ。
人魚は他の生物に比べ長寿だ。
俺や木賊はまだまだ若い方で、この男はゆうに600歳はこえている。
昔、人魚は頻繁に海上に現れ、その歌声と容姿で人を誑かしては食い物にしていた。
のちに、人間の間で人魚の肉が不老長寿の秘薬だと言う噂が流れ、人魚狩りがはじまってからはそんな事もなくなったらしいのだが、その時代を生きていたこの男は、いまだにその時の事が忘れられないとかで人が流れ着いたり、供物として捧げられると嬉々としてとんでくる。
そして、乗り気ではない俺に人を食わせ、抱かせた。
まだ、王になって間もない俺は国を守るうえで前王の時代からいる大臣との人魚関係は円滑にした方が良いだろうと半ば嫌々ながらもそれを行なった。
何がいいのかサッパリ分からなかったが、、、。
目の前で資料を読み上げる紫安の報告を聞きながら昔の事を思い出していると、隣から冷たい雰囲気を感じた。
どうやら木賊も思い出していたようだ。
「以上が、現在までの西地区水路拡大の進行状況で御座います。」
「 あぁ、わかった。ご苦労。」
報告を聞き終えそう言えば、紫安は深く頭を下げる。
いつもならそうしてすぐに退室するはずなのだが今日は違っていた。
紫安は顔を上げるとなんとも言えない品のない笑みを浮かべていた。
「 ところで陛下。」
「 何だ。」
「 また、人間が流れ着いたとか?今回は女ですかな?それとも男でしょうか?」
ニタニタと下品に笑う紫安に、隣の木賊から凍てつくような空気が漂いはじめた。
俺も嫌な予感しかしなかった。
「、、、男だが。それがどうした。」
自分でどうしたと聞きながら、答えなんて決まっているだろうと心の中で悪態を吐く。
俺の言葉を聞いた紫安は、嬉々とし声音でそれはもう嬉しそうにベラベラと話し出した。
「 男でしたか!年はどのくらいでしょうかな?聞いた話では随分と若く、珍しい見目だとか!?若いなら色々楽しめましょうぞ。やっ!もちろん陛下が飽きてからで良いので、私めにもどうかご相伴にあずかりたく、、、!」
紫安の話を聞きながら俺は静かだが激しい怒りに脳を焼かれそうになっていた。
( 俺以外が風音に触れるだと?その油まみれの太い指であの綺麗な肌に触れる、、?ましてや最終的には喰ひ殺す気か?冗談じゃない!!)
「 おい、、、。」
今までに無い地を這うような低い声が唇から漏れた。
隣にいる木賊は俺の状態に気づいたようで小さく息を飲む音が聞こえた。
しかし、目の前の男は風音の事で頭がいっぱいなのかそれに気づいてすらいない。
「はい!陛下。」
上機嫌に返事をする奴を俺はギロリと睨みつけた。
「 いいか、アイツに指一本でも触れてみろ。ただではおかないからな。アイツは私のものだ。」
「 へぇ?陛下それはどういう、、、?」
ポカンと口を開けてこちらを見て来る紫安に怒りがさらに膨れ上がるのを感じ思わず眉間にシワがよる寝を感じる。
「気分が悪い、出て行け。」
「へっ!陛下?!」
訳がわからないと近づいて来ようとする紫安を、木賊の冷たい声が遮る。
「 衛兵!紫安大臣がお帰りです。丁重に送り届けなさい。」
木賊の声に扉の前にいる衛兵達が「失礼致します。」と入ってきてあくまで丁重に紫安を連れて出て行った。
一気に静かになった室内。
木賊がそっと口を開く。
「 ちょっと違うけど、少しは僕の気持ちわかったかな?陛下?」
嫌味っぽくそう言われ、俺は怒りを溜息でチラシながら小さく「あぁ、、、。」と言えば木賊はニヤリと笑って「風音君様々だなー!」と呟きながら言う。
「少しは反省してくれたようだね。しかたがないから寝顔を見る許可くらいは出してあげよう。」
俺は思わず、「寝顔だけか、、、。」と呟いた。
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