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文句とアルバム
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ぺらり。
しばらく仕舞い込まれていたせいでツルツルとしたページ同士がくっついているらしい、1枚、また1枚と捲る度にページの剥がされる音が1人の部屋に響く。
こんなものがあったのか。
白がまず抱いた感想がこれだ。
つい先ほどまで仕事で不在の里冉に代わってリビングの片付けをしていたのだが、それなりの大きさがあるシンプルな表紙のアルバムが出てきたおかげで、その片付けの手は止まってしまっていた。
一目でアルバムだとわかった。
だがうちにこんなものがあるとは夢にも思っていなかったため、触れて、中を見ても、正直なところまだ本当にあったことが信じられない。
でも写っているのはどう見ても家族で、もうほぼ忘れていた両親の顔がそこにあって。
「…懐かしい、な」
これは記憶にある。保育園の…確かお遊戯会的なあれだ。
はは、英樹ちっせぇー。今でこそクソでけぇけど、流石にこの頃は俺のがデカかったのなぁ。
そんな当たり前のことを今更思う。
昔の写真なんてほとんど見たことなかったから。
「冉兄…アルバムの存在知ってたのか…?」
流石にいつも掃除しているのだ、慣れていない俺がやってもこんなサラッと出てくるものを知らない方がおかしいか。
白はそう思うと同時に、なぜ1度ですら出してこなかったのかと疑問に思った。
「…あれ、なにそれ」
「あ、樹」
リビングに入ってきた末っ子と目が合う。
それから手元に目線が動くのがわかって、もう1度 あ、と声を漏らした。
「なんか…掃除してたら見付けてさ」
「へえ……こんなのあったんだ」
「ふ、お前もその反応。まあそうなるよな」
「これ白兄…?そんでまさかこれが兄貴…?」
「そうそう。昔から超美人兄弟だろ」
「自分で言わないでよ。英兄はなんていうか…かわいいね」
「はは、今とは大違いだよな」
「そうだね」
そこからは、予想を反して食いついてきた樹と共に見進めた。
アルバムには、保育園での姿や、家での寝顔や、遊んでいる姿。そんな平和な日常がこれでもかと詰まっていた。
しばらく談笑しながら見ていると、双子誕生、とフチに書かれた1枚の写真に樹が見入ったのがわかった。
「ね、白兄」
「ん?」
「これ……母さん……だよね」
「あ…あぁ……」
沈黙が広がる。
なんだか少し気まずい空気に耐えられず白が口を開こうとした時だ。
「綺麗、だね」
「…!」
「全く実物なんてもう覚えてないけど、母さんってわかる。すごく、綺麗で、なんでか懐かしい」
「樹……」
それから「兄貴って母さんそっくりなんだね」と柔らかく笑った樹の横顔に、白は一瞬目を奪われた。
母親の影を見た気がした。
「…そうだな」
「うん、そっくりだ」
「樹は」
「うん?」
「樹は…寂しいと思ったりはしないのか」
白からそんなことを聞かれると思っていなかった樹が一瞬フリーズしたが、すぐに答えを口にした。
「思わないよ」
「……!そう、か…」
「うん。だって今でさえ5人もいてこんなに騒がしいのに、これ以上増えたら、ねえ?」
「ふは、そうだな」
「…うん、思わない。寂しいなんて感じる暇ないから。兄貴達のせいでね」
「そこは“おかげ”って言ってくれよ」
「いやだね」
いつも通り辛辣な、というかツンデレな樹に思わずふふっと口元が緩んだ。
「楽ってほんとに女の子みたい」
「あはは、ほんとだ。樹もかなり可愛いけどな」
「楽ほど女の子じゃない」
「それは同意」
「これとか、これとか、男って言われた方がびっくりするよね」
「わかるわかる」
昔からこの双子はそんなに似てないんだなぁ。あ、でもこの写真の泣き顔はそっくりだ。あぁそうだ冉兄大好きなとこもそっくりだったな。
かなり幼い頃な筈なのに朧げながらも思い出せる箇所があることに、白は自分で驚く。
ちゃんと過ごした時間なんだな。となんとなくだが実感した。
「……気になったんだけどさ」
「?」
「これって誰が写真に撮って誰がアルバムにまとめたのかな」
「…え、父さんと母さんじゃなくて?」
「いや……だってこの辺もう2人ともいなくない?」
樹が最後の方をパラパラと見ながら言う。確かに、双子が小学生に上がったあたりだ。いるはずがない。
「……まさか」
「…ねえ白兄、出てきたのこの1冊だけだったの?」
「ちょっと待って」
もう1度出てきたあたりを探すと、まさかのもう何冊か出てきた。こちらは表紙からして新しいのがわかる。
「……これって」
「絶対そうだな…」
「兄貴…いつの間に…」
「あの人なんでもやるなぁ…」
確実に、長男の仕業だ。
英樹も楽もこんなことするわけない、というのと、里冉本人がほとんど写っていないあたり確実にそうだろう。
そして1冊目の最初の方と比べるとやたらオシャレな写真が増えている。なんというか、所々アイドルの写真集って感じだ。ただのアルバムなのに何故だ。
あと盗撮紛いの写真も多い。気づかないうちに撮られていたのか、と半ばビクビクしながら2人はページを捲る。
「…楽が多い」
「流石だな冉兄…幼少期の写真と並ぶくらい可愛いあたり技量を感じる……」
「なんでこんなになんでも上手いのアイツ」
「なんか段々腹立ってきたな」
「それね」
「勝手に撮られてたっぽいしな」
「ほんとそれ」
帰ってきたら文句言おう。仕事終わりとか関係ない、文句言おう。
なんだか少し嬉しくなっていることは見ないふりで、そう誓った2人だった。
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