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ここのバーは一階と二階が一つのフロアになっていて、二階へ行くと、一階の半分くらいが見渡せるようになっている。有名な場所と頭に入れていたが、思っていたよりも広い。それが知らず知らずのうちに旭の口から出ていたようで、「実は元々のホテルを潰して出来てるから、上に行くとそのままが残されてて泊まれるんだよね」と椎名が教えてくれた。
二階は一階と違って、比較的大人な雰囲気だった。椎名が年齢を気にしていたのも、もしかするとこれが原因かもしれない。だからといって気にしないけれども。
「飲み物、新たに頼もうか」
「はい、そうします」
二階へ階段を登り、旭は飲み物を注文し直す。移動も含めてその間に、椎名と話しながらリサーチをしていた。
普段は日中会社勤めのサラリーマン。バーには若い頃は頻繁に訪れていたみたいだが、ここ最近は気が向いた時に転々と回っているらしい。お酒は旭と違って、日本酒や焼酎をよく好んで飲んでいるようだ。
「椎名さんは女性も男性もどちらでも大丈夫なんですか?」
「そうだね……まあ、今までの恋愛対象はどっちかというと男が多かったんだけど、たまたま気が合ったのが男が多かっただけで、その人のことを大切に想えるならって思ってる。旭くんは……あ、“ネコちゃん”ってことは」
「そういうことです。……今更ですけど、パートナーの方っているんでしょうか……」
「いないよ。旭くんにも言えることだけど、相手がいたら多分こうやって一緒に飲もうってならない気がするな」
「それもそうでしたね」
恋人は、いない。それを聞いて旭は安堵する。
椎名は大人の男だった。話していると妙に安心感が生まれ、こっちだよと時々背中を支えてくれて優しい人だった。旭には持っていないものがかっこよく映り、魅力的だと思う。明と健人の二人と比べるまでもない。
「……あれ、誰かいるね。一旦、席外したから空いたと思われたみたい」
椎名が飲んでいたらしき場所に着くと、他に誰かがいたようだ。そして、相手のほうも気づいたようで。
「京介!」
どうやら椎名の知り合いらしい。
「ああ、なんだ来てたんだ……なに?」
「なにって……今日一緒に飲むって! というか、誰!?」
やってきた人物は、男にしては可愛らしい人だった。髪を明るく染めて服の露出も高めで、椎名といるよりかは、さっきみたいな若いグループに入っていそうだ。はっきり言うと、椎名のイメージとは正反対で釣り合わない。
そんな男からいきなり視線が飛んできて、旭はびくりとする。それと、旭の時とはまったく違う椎名の態度。修羅場だ、と身を縮込めていると、気づいた椎名が背中で庇ってくれた。
「なかば強引だったし、俺は言われるたびに断ってたけどね。そろそろ勘弁して欲しいんだけど……それに今まで苗字で呼んでただろ。急になに。今日はこの子と一緒に飲む予定だから、君とは飲めない」
「はあ? なんだよそれ……先約はこっちじゃん! そんな地味な子……俺の京介に近づくなんて信じられない!」
「関係ないだろ。この子にまで手を出したら許さない」
「なんで庇うわけ? もういい、最低……っ」
ばしゃん。
冷たいものが椎名越しにかかってきて、その後、男が大股で去っていくのが見えた。その男を目で追っていると、ついさっきの修羅場のシーンがフラッシュバックして背筋が凍るようで。
慌てて椎名に視線を戻せば、ぽたぽたと髪の毛から水滴が落ちていた。旭は急いでカバンの中を漁り始める。
「一度抱いてやったくらいで……」
すると、椎名から低い声が聞こえてきた。声は小さかったが、近くにいた旭には確かに聞こえた。
ああ、あの人を抱いたんだな、と思うと、心臓がチクチクと痛くなって悲しくなる。それに突如とあの可愛らしい男が羨ましくなった。これは多分嫉妬だ。抱いたということは口づけもきっとしていて……勝手に想像までしてしまって馬鹿みたい。
みんな大人で、旭は置いてけぼり。今日はそんな印象である。
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