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「向こうが勘違いしちゃったみたいで、しつこく付きまとわれた。バーに顔出せばアイツがいるからって行かなかったら、仕事帰りに会うわ、家の前で待ち伏せてるわで。とうとう抱いてくれなかったら自殺するとか言いだすから折れたわけだけど、余計に勘違いされてさ。最終的に弁護士案件になったわけ。とりあえずはもう終わってて一切会ってないんだけどね」
──また前みたいに変なのに捕まるよー?
──付きまとわれてちょっと迷惑してるんだ。
過去に聞いたことを思い出した。こういうことだったんだ。確かにバーで修羅場に遭遇した時に旭を睨んできたあの瞳は、椎名への執着心がひしひしと伝わってきた記憶がある。
背筋に冷たいものを感じ、旭は思わず息を呑んだ。すると、椎名が苦笑して。
「アイツ、派手な身なりしてたでしょ? 最初に助けた時はそうじゃなかった。旭くんみたいに素直な子だと思ってたんだけど……俺に勘違いしておいて、いつの間にかイメージチェンジしたと思ったら、遊びにも嬉しそうに行ってたみたいでさ。思い出すだけで胸糞悪いから、あの時につい暴言が出ちゃいました。今まで不安にさせていてごめんね……」
すべて話してくれた上に謝ってくる椎名に、旭はぶんぶんと首を横に振った。
椎名にそんなことが……。大変だっただろうし、思い返したくない過去を押しつけがましく振り返させてしまって。子供じゃないと強く出た数十分前の自分が恥ずかしい。でも──。
「聞けて良かったです。話してくれてありがとうございました」
すると、ぽんぽんと椎名の手が旭の頭に乗った。
「旭くんも本当は助けただけのはずだったんだけど、自分でも驚くほどハマってた。旭くんは純粋ないい子で凄く可愛いっていつも思うし、大切にしたいと思ってる。一緒にいて楽しいから、デートのお誘いも嬉しかった。でも、誰かに貰ったからっていう誰かにめちゃくちゃ嫉妬した。その分、仕事が忙しいからって、いつもデートに誘おうと思ってるのに忘れちゃってっていう自分が悔しい」
「あ……あれは! あれは……ごめんなさい。実は嘘なんです。椎名さんに会えるきっかけが欲しくて、誰かに貰ったっていう理由つけて誘いだしてました。実際は、ほとんど自分で用意したものなんです。ごめんなさい……」
みるみる自分の子供らしさが曝け出される。過去の発言をますます撤回したい。
「え、そうだったんだ。もしかして旭くんに毎回出させてた? うわ、マジか……しかも、嫉妬する相手がいなくなって安心してる自分がいるから本当に駄目な大人だな、俺は……」
椎名はがっくりと項垂れて両手で顔を覆った。
「俺、椎名さんだから頑張れました。会いたくて嘘ついたのは悪いと思っているんですけど、いつも楽しかったです。幸せいっぱいで嫌なことも吹き飛ぶくらいで」
「……うん、そうだね。それは俺も同意する」
間を開けて答える椎名。まだ口元は覆われているが、顔を上げて旭のほうを見てきて。その顔色は旭の言葉に照れて赤く染まりつつある。
(うわあ……京介さん、顔が……っ)
その症状はすぐに旭へと伝染した。頬が熱くなり、ドキドキと心臓がうるさい。そして、心がムズムズする。それはここで椎名のことが好きだと告白するべきなのでは、と脳が一生懸命に伝えてくるからだ。
好き、すき。椎名さんが好き──。
短いタイムリミットでの何度かの予行練習で、旭はようやく椎名の名前を呼ぶことが出来た。
「し、椎名さん!」
「ん?」
「俺、椎名さんのことが好きです……凄く、好きで……いつも頭の中は椎名さんのことだらけなんです」
出会った時から、ずっと。椎名のことでいっぱいで、旭の世界は椎名で回っているくらいに。
「旭くん……ありがとう。でも、本当に俺で大丈夫? 前にも言ったけど、俺は三十五のおっさんだし、いつでもどこでも旭くんのこと可愛がってしまうよ? きっとこれまで我慢してた欲望とかぶちまけちゃうし、醜い束縛もするし……実際は旭くんの思っている人じゃないかも」
「椎名さんが心配するようなことじゃないです。椎名さんは俺のことどう思ってますか? 椎名さんの気持ちが一番大事です」
溢れた想いの分、旭が身を乗り出し気味に伝えると、椎名はついにぷっと吹き出して笑った。
「……これは降参だな。好きだよ、旭くん。本当にどうしようもないくらいにね」
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