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記憶を紐解くには②
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「お、稔。こっちこっちー」
待ち合わせ場所は居酒屋だった。
俺の仕事が夕方終わりだったから、夜会うことになった。
「わりーな、呼び出しちまって」
「いや…大丈夫だ。予定があったわけじゃないし」
ビールやつまみを頼み、一息つく。
そういえばこんな風に飲みに行くのは、会社での付き合い以外は初めてかもしれない。
「稔は仕事、配送業なんだな。力仕事で大変じゃね?」
「慣れればどうってことないよ。もう3年くらい経つし」
「へー。すげぇな」
ビールが運ばれてきて、乾杯をする。
何だか不思議な気分が拭えない。
「城戸は大学生?」
「ああ。都内の大学行ってる」
「そうか。俺のバイト先の同僚も大学生で、レポートとかテストが大変って言ってた」
「まーな。俺はあと夏にレポート出したら終わり。テストはまぁ…単位は取れたろ」
つまみが運ばれてくる。
枝豆をとりつつ、まじまじと城戸を見つめる。
何とか記憶から城戸のことを引っ張り出そうとするけど、やっぱり思い出せない。
と、いうか…何で城戸は俺を呼んだんだろう。
「あのさ、今日俺のこと呼んだのって、何で?」
「ん?」
「あ、いや…その、何か用でもあるのかと…」
「いや?別に理由ないけど」
「そうなのか?」
「この前久しぶりに会ったからさ、ただたんに飲みに行こうかと思っただけ」
にこー、と微笑まれていたたまれない気持ちになる。俺は城戸のことを覚えてないけど、城戸にとって俺は、普通に飲みに誘える相手なのか。
それから城戸は小学校時代の話をして、何となく当時のことをぼんやりと思い出してきた。そういえばそんな先生いたなぁ、とか、色々と行事があったなぁ、とか…
「稔は教室か図書室で本読んでたイメージが強いな」
「そうだな…本好きだったから」
人と関わらないようにするには、それが一番だった。だから読んでただけなんだけど、いつの間にか本を読むことそれ自体が好きになっていた。
「俺はあんま読まないからなぁ…何かオススメある?」
「最近読んでるのは…そうだな、江波 漣(えなみ れん)の作品とか好きだよ」
「あれか、何か賞とってたやつ」
「そう、その人。結構初期から好きで…」
「へぇ」
他愛のない話をしながら、俺は久々に楽しい酒を飲めた気がする。ただ、城戸がどんどん酒を頼むものだから、かなり早いペースで飲んでしまった。
明日が休みで良かった、と思いながら城戸の話に耳を傾けた。
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