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③
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帰宅途中、自宅近くのパン屋に寄っていくことにした。
明日の朝食として食べようかと思ったのだ。
ドアは開閉式だったので、引いて中に入る。
来客を告げるベルが鳴った。それを合図にレジカウンターにいる店員が「いらっしゃいませ」と言う。
声に聞き覚えがあり、店員の方を向くと目があった。その瞬間、あっ、と声をあげた。
「瀬世!?」
「先生……!?」
瀬世であった。瀬世がこの店の名前『Alice』が入ったエプロンを着てレジに立っていた。
「……先生、なんで」
「こっちのセリフだ。いつからここで働き始めた?」
「二週間前……ぐらい」
「あぁ……じゃあここには寄ってないな」
浅海が最後にここに来たのは四週間前だ。
「こんなに遅い時間までバイトしてるのか?」
「……悪い?」
瀬世は台に片手をついて身体を支えて挑発的に言う。
うわ、出た――
浅海は瀬世のこの態度と吐き出す言葉が気に入らなかった。
「悪いとは言ってない。だが、時間を考えろ」
腕時計は午後十一時過ぎを示していた。
「……大丈夫だよ、いつもはもっと早くあがるから。それより、もうすぐ閉店だから早くしなよ」
「うっ……わかったよ」
浅海は国語の教師だが、瀬世の口にはどうしても敵わない。
瀬世に背を向けると、気に入ったパンをトレイの上に乗せていく。
「じゃあ、これお願い」
トレイを台の上に乗せる。
瀬世は手際よくトレイのパンを見ながらレジを操作した。
「……六百五十円」
「はい」
浅海は鞄から財布を出して中から六百五十円ちょうどを出した。
「はい、どうぞ」
「……ありがとうございました」
瀬世はパンの入った紙袋を差し出した。それを受け取り出入口に向かう。
「……あの、先生」
急に瀬世に呼び止められた。驚いて振り返る。
「……明日の放課後。相談あるから……教室来て」
「相談? 良いけど……どうかしたのか?」
すると、瀬世は浅海に近づいてその唇に人差し指をぴとっと当てた。
「それは明日。良いね? ……ちゃんと残っとけよ」
最後の方は語尾が荒かった。少し身構えてしまう。
「あ、あぁ。わかった……」
そう言って浅海は逃げるように立ち去った。
――怖かったんだ。
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