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⑥
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確かに瀬世なら誘導することくらい容易いだろう。それにあの性格である。間違いなく人を陥れて優位に立ってきた人間だ。
正直、自分はそこまでされるのに相応しい人間だとは思えない。
『他人の人生』と『浅海の愛』を天秤にかけても、瀬世には『他人の人生』が驚くほど軽いのだ。
「そう……なのかもな」
「まあ、いいわ。……離婚しましょう」
ほっとした反面、視界の端に映る娘の姿がどうしても心をざわつかせた。
娘とは離れたくない自分がいた。望まない結婚で産まれてしまったが、それでも愛情を注いで育ててきた。
あの子は、オレが守る――
「あの子は……――咲は、オレが面倒をみたい」
「そうね……あなたのこと、大好きだもの。その方がいいわ」
娘の咲はまだ九歳である。普通なら親権は母親になる。それはまだ子供に判別がつかない場合、父親と母親が争わないようにするためである。
しかし、両親の合意の上で、子供の好きな方を選ぶこともできるのだ。
「咲、おいで」
浅海が手招きをすると、咲は眉をひそめてゆっくりと近づいてきた。
まさか、こんな日が来るとは思わなかった。それは、きっと妻も一緒だろう。今から伝えなければならないことを考えているのか、悲痛な顔をしている。
「咲、よく聞くんだよ。お父さんとお母さんはさよならすることになったんだ。わかるかい?」
「……知ってる。『りこん』って言うんでしょ? 友達が言ってたもん」
どんな友達だよ……。でも、助かった――
浅海は咲の頭を優しく撫でた。
「それでね、咲はお父さんかお母さん、どっちと一緒にいたい?」
「……お父さん」
そう言ってちらりと自分の母親を見る咲の目は驚くほど冷えきっていた。それは、とても自分の母親に向けるものではなかった。
「じゃあ……そういうことで決まりね。早く書いてしまいましょ。あなたは仕事があるから、役所には明日私が出しに行くわ」
「あぁ……ありがとう」
空気が少し緩んだ気がした。
ようやく終わるんだ。この仮面を外すことができる。
何より、ようやくきちんと瀬世と向き合える。
なんだかんだ言って、結局は瀬世に助けられたのかもしれない。
自分の人生は、完全に瀬世の手で変えられ、これからもそうなるのだろう。
明日、お礼でも言おうか――
そう思いながら、『家族』最後の余韻に浸っていた。
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