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新学期(17)
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なるべく音を立てないように、静かに部屋を出ると聖夜は走り出した。
エレベーターの前を通り過ぎ、非常階段の扉を目指す。
理人と聖夜の部屋は寮棟の男子エリア最上階、36階にある。
36階には理人と聖夜の部屋を合わせて6部屋。
この階は、様々な能力に秀でた者が学園に守られるように強制的に入室させられる。
だから3階がいいって言ったのに!クソ狸ジジイ!
心の中で悪態を付きながら、聖夜は非常階段の扉を開ける。
「羽黒の神よ八咫を守りし我に力を……。」
言いながら聖夜は階段から飛び降りた。
10階分ほど落ちたところで聖夜の背中に黒い翼のようなものが現れ、落下速度が落ちていく。
地上に近づくと翼を終い、約3階の高さから地面に着地した。
突然現れた聖夜に驚く生徒に見向きもせず、売店に走る。
「聖夜!」
「……なに?」
呼ばれた声に一瞬嫌な顔をした聖夜は振り向かず返事だけする。
「なにって……それ愉香里が聞きたいんだけどぉ?」
彼女の名前は稲谷 愉香里(いねたに ゆかり)。
稲谷財閥の令嬢で、我儘放題に生きて来た感否めない自己中心的な女の子である。
聖夜は何故か彼女に気に入られて、しつこく付きまとわれている。
「急いでんの。」
「それは見ればわかるよぉー。なんで急いでんの?」
「関係ない。」
歯磨き粉を取り、会計に出すと後から稲谷が覗いてくる。
聖夜の背中に手を当てて、稲谷は必要以上に身体を寄せて来る。
「えー?歯磨き粉買うだけ?」
釣り銭を貰い、小さな紙袋に入った歯磨き粉を掴むと、聖夜は急いで売店を出ようと稲谷を無視した。
「どうも。」
早くしなければ、気配がなくなったことに気がつき、理人が起きてしまう。
せっかく寝付いたのに、こんな所でもたもたしている暇などない。
イラつく聖夜に気が付かずに、谷稲は引き留めようと腕を引く。
「待ってよ!なんでそんなに慌ててるの?愉香里とちょっとお話しする時間もないの?」
「無い。」
冷たく腕を振り払い、聖夜は売店を出るとまた走り出した。
走ったまま上体を低く構え、先程の翼を出すとふわりと飛び上がった。
「聖夜ぁーーー!」
下で稲谷が呼んでいても気にしない。
ひたすらに理人の元へと急ぐ。
ポツンと取り残された稲谷は、口に手を当てるとニヤリと笑い呟いた。
「やっぱり、アレ欲しい。聖夜は、愉香里のモノよ。」
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