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嘘の鏡合わせ(4)
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「おかえり。」
病室を出てナースセンターの前まで来ると、聖夜と流生が一番端のベンチに腰掛けて待っていた。頷きだけを返して聖夜と流生の間に座ると、流生が理人の肩をぽんぽんと優しく撫でてから立ち上がった。
「流生。」
立ち上がった流生に聖夜が声をかけると、流生はいつもの笑顔で振り向いた。
「はい。」
「あとは頼んだよ。」
「任せてください!」
「ここで待ってるから。」
「はーい。」
気の抜けた返事をして流生が病室の方に消えると、理人がコツンと聖夜の肩に頭を乗せた。
「理人?」
「早く帰りたい。」
耳元で囁かれたその言葉はとてもだるそうな響きだった。普段から理人の表情はあまり動かないため、声音だけで判断するしかない。だからこそ、彼の声も言葉も聴き逃してはいけないと聖夜は思っている。理人からのSOSサインは、本当に分かりづらい。
「...シャワーだけ浴びたらね?」
聖夜も小声でそう言うと、少し頭が動いて何となく不機嫌になった気がする。
「手、握っていいよ。」
わざと自分の太腿の上に手を上向きにして出したら、パッと頭が離れた。
「ばーか。」
こんな所でするわけねーだろ。
理人はそんなことを思っているのだろうと当たりを付けて、聖夜は微笑む。今肩に頭を乗せていたのは恥ずかしくないくせに、手を繋ぐのが恥ずかしいだなんて、本当にこの主人は歪んでいる。でも、そこが愛おしい。幼い頃から見ていたこの不安定な歪さが、聖夜を理人に執着させる。頼ってくれるのが、完全に気を抜いてくれることが、たまらなく聖夜を嬉しくさせるのだ。
「頑固だねー。」
そう言って少しずらしたウエストポーチの下で手を握る。するとやっぱり、理人は握り返してくれた。
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