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もう聞きなれたカランコロンという鈴の音。軽く弾む音とは裏腹に俺の気分は重くなる。この音が、今日も狐塚さんとの闘いの合図だ。絶対に今日も逃げきるぞ。
「凪!今日こそは…」
「狐塚さんおはようございます~。もう外にお客さんらしき人がいたので今日は早めにオープンしてもいいですよねぇ?」
「…おう」
狐塚さんの話す隙を与えず、ヘラっと笑みだけ向ける。もちろん瞳には話しかけるなという思いを強く滲ませながら。今日は運よく、開店前から外でお客さんが待っていたから、わざわざ逃げようとしなくてもおのずと手元に集中するしかない狐塚さんとの会話は以上。
テーブルの上を拭いて、飲み物のグラスなどの準備を終える。キッチンにいる狐塚さんの準備も大丈夫そうだったから、ちょっと早いけど外で待っててくれているお客さんに声をかけてオープンにした。
開店前からお客さんが並んでいることも少なくない。俺の出勤時間とオープン時間は同じだから、今の狐塚さんとの状態にはありがたかった。
「凪ちゃん、いつものやつお願い」
「は~い」
俺がバイトするようになってからほぼ毎週来てくれる常連さんの女性。いつも連れてくる人は違うその人は、暖炉の前で白い猫を膝に乗せながら編み物をしてそうなおばさま。絶対金持ちのおばさまだ。
そうして始まった今日も、相変わらずお客さんが途切れることはなく、仕事にだけ集中できる時間だった。閉店時間になり、看板をクローズにしようと外に出ると。
「あれ?」
「あ、お疲れ様。凪くん」
「上里さん、さっきお帰りになったはずじゃ…」
「凪くんのバイトが終わるのを待ってたんだ」
え、何で?俺を待っていたという上里さんは、10分ほど前まで店内で食事をすませた後、コーヒーを飲みながらカウンター席で本を読んでいた人だ。初めて俺と顔を合わせてから毎週来てくれている20代のサラリーマン。今日、何かやらかしたっけ?
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