アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
2
-
俺は荷物を持って駆け出した。
あの人は今どこにいるんだろう。
表から入った俺はこの映画館の中の道を全く知らない。
だけど、あの人が待機しているのならそれはきっとこの舞台の向こうだろう。
出口へ向かいかけた足を戻し、さっきまであの人達が乗っていた舞台へよじ登る。
少し背中がざわめいて誰かの声が聞こえるけれどそんなのはもう気にしていられない。
舞台裏へ踏み出すとすぐに警備員へ体を押さえつけられる。
「誰だ!?」
「通してください、藍川さんへ用があるんです…!」
「関係者以外立ち入り禁止だ、出ていけ。指示に従わないなら警察を呼ぶぞ。」
「…関係者。」
その言葉にピンときた。
確かに俺とあの人は他人になってしまったけれど、事実上は会社で繋がっている。
…つまり。
「memory社の者です。編集長の吉田に中へ来るように言われたので。…急いでます、早く。」
「…memory社、…わかった。どうぞ奥へ。」
「どうも。」
顔を伏せるように頭を下げ警備員の横をすり抜けていく。
これが職権乱用なんだろうな、と思いながらもここまで来たらもう止められない。
俺は一度止まってしまった足を強く踏ん張り少し駆け足で廊下を進んだ。
楽屋に貼られた紙を1枚ずつ確認して、あの人の名前を探す。
ねぇ 貴方は
俺を見たらどんな顔をするでしょうか。
怒りますか?
悲しみますか?
笑いますか?
驚きすか?
それとも いつもと変わらない笑顔で
「初めまして」 って 言いますか?
震える手が 『藍川』 と書かれた楽屋の扉を押し開く。
迷いなく、ただこの奥にいる貴方に出会うために。
毎日通っていた貴方の家の扉を 開くように。
「 おはよう、小波くん。」
広い部屋
たった一人、真ん中の席に座った貴方は
あの日と あの日々と変わらず
優しく 温かく そして悲しく
いつもと同じように笑って俺にそう言った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
206 / 208