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ユキくんの保護者(3)
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地獄というのは、とにかく人間にとって恐ろしい場所だと聞いたことがある。悪いことをすると恐ろしい目にあう、と人間に思わせて、生前に悪いことをさせないためらしい。
なぜ人間のためにそんな場所を用意しなきゃならんのだ?
閻魔の考えることは悪魔にはよくわからない。
「いやいや、閻魔様はな、とにかく素晴らしいお方なんだよ」
少年の父親に会いに行く途中、そんな自分の考えを同期悪魔に話していたら、即座に否定されてしまった。
「どこが素晴らしいんだ?なんだか胡散臭い感じがしたんだが」
「4代目が?それはお前、お前の目が悪いよ。そしてそんな捉え方をしてしまうお前の根性と底意地が悪いよ」
「そこまで言うか?」
「時代は変わったんだ。寿命を奪うだけが悪魔じゃない。地獄を存在させることによって、人間を…」
「おい、あれ何だ?」
「話を聞かないやつめ」
少し先に、たくさんの悪魔が集まっているのが見える。そしてその中心にいるのは…人間?
「あの人間、針山にも登らず血の池にも入らずに何をしているんだ?」
「あれはミツルだ。お前のお目当てのな」
「少年の父親…?」
「行ってみるか」
すたすたと歩いていく同期に慌ててついていく。地獄の地面はゴツゴツしているし、いたるところで人間が倒れているから歩きづらい。
悪魔が集まっているところに到着すると、中心にいた少年の父親…ミツルがこちらを向いた。
「あ、039号さんだ。久しぶりだね!」
ミツルは少年によく似た顔をしていた。もういい大人だろうに、子どものように無邪気な笑顔を振りまいている。一言で言えば……可愛い!
同期は恭しくお辞儀をした。
「ミツルさん、お久しぶりです」
ミツル…さん?
「そちらのあくまさんは?新人さん?」
「いえ。この悪魔はミツルさんに会うために地獄へやってきました」
「へー、そうなんだ!僕に何か用事?」
「あ、ええと…」
なんだろう、この状況?
地獄へ落ちた人間は、24時間ひどい仕打ちを受け、廃人のようになっていくと聞いていた。
しかし目の前にいるミツルは全くの無傷。しかも周りに悪魔をはべらせて、おいしそうなご飯をあーんされている。
「ん?どうしたの、あくまさん?」
ミツルはかわいらしく首を傾げて俺を見た。
なぜか周りの悪魔からの視線が痛い。
「お、俺は、おたくの息子さんと契約している悪魔……です…」
「えー、そうなんだ!由貴は元気?」
「はい。ちゃんと学校にも通って、楽しそうにしています」
「よかったー!あ、ねえねえ039号さん?僕これからこのあくまさんと2人でお話したいんだけど…いいかな?」
ミツルは同期の腕をつかみ、上目遣いで尋ねた。
「は、はい!もちろんです!とっておきの場所へご案内しますぅ!」
同期はヘロッとした顔で敬礼した。
同期に案内されて、俺とミツルは地獄一帯が見渡される高い山の上に着いた。
同期が姿を消すと、ミツルは大きく伸びをした。
「あーっ、久しぶりに取り巻きから離れられたよ。ありがと、あくまさん」
「え?ああ、はい…」
「地獄もけっこうチョロいよね。ちょっとかわいこぶったらなんでも言うこと聞いてくれちゃうんだもん」
「え…?」
ミツルはさっきまでと同じように無邪気な笑顔を見せている。
「まさか夏タイヤで雪道を走ったくらいで地獄に落とされるとは思わなかったけど、こんなにちやほやされるなら地獄もいいよねー」
「え、えーと、ミツルは…悪魔に媚を売って、いい思いをしてるということ?」
「うん!そうだよ!悪魔ってショタコンが多いのかな?純粋で可愛らしい少年って感じの態度でいたらみんなころっと……あれ?あくまさん?どうして耳塞いでるの?」
「聞きたくなくて…」
少年と同じ顔でそんなひどいこと言われたら、俺もう生きていけない。
「あはは、面白いあくまさん。…名前、なんていうの?」
「043号…」
「043号さん、どうして僕に会いにきたの?」
…そうだ。ショックを受けてる場合じゃない。
「息子さんがお父さんとお母さんに会いたがっていたので、代わりに様子を見にきたんです。…ユキくんは、いつも明るくて元気ですが、やはり寂しさも感じているみたいで」
初めてユキくんって言っちゃった。てへへ。恥ずかしい。
「そっかぁ。僕も由貴のこと、ずっと心配だったんだよね。僕と美湖がいなくなって、1人ぼっちになるから。由貴はどうやって生活してるの?誰かに預けられて?それとも孤児院とか…?」
「いえ。ユキくんのことは、俺が全部面倒を見ています」
「…え?043号さんが?なんで?」
「ユキくんとそういう契約を結んだので」
「えっ…あはっあはははっ」
ミツルはなぜか声を出して笑った。
「あの子もたくましく生きてるんだね。親子で悪魔の世話になってるとか…」
「お、俺がしたくてお世話しているだけで、ユキくんは、別にそんな、あなたみたいな下心があるわけでは…」
「へー、そうなんだ?043号さんは由貴のこと、そう思ってるんだ?へえー」
ミツルはにやにやと笑っている。
大丈夫。自信を持つんだ。
ユキくんは本当に純真無垢な子どもなんだ。
「…お父さんから、ユキくんに何か伝えたいことはありますか?」
「んー、そうだな。長生きしてねって言っといて。お父さんは由貴にはしばらく会いたくないって言ってたぞって」
「…はい」
「あ、あと!雪道を運転するときは必ずタイヤを交換するようにって伝えといて」
「あ、はい」
ミツルは遠くを見つめた。
「あの時、家族3人みんなで死んで、天国で一緒に暮らせたら幸せだったのかなとも思ったけど……僕は地獄行きだし、由貴はもっと生きて、生きてないとできない経験いっぱいしなきゃいけないし」
ミツルが初めて、ちゃんとした父親に見える。
「043号さん、これからも由貴のこと、よろしくね」
「はい。俺は一生ユキくんのそばにいると決めてます」
「一生…かぁ。由貴はきっと天国に行くだろうし、僕と由貴はもう二度と会えないんだなぁ」
ミツルは下を向いて、俺の手を握った。
「由貴と美湖に会いたいなぁ…。043号さんが閻魔に口をきいて、僕を天国に行かせるように頼んでくれたらなぁ…」
「なっ…」
ミツルは体を近づけて、俺の腕を抱きしめた。
「あくまさん…僕のお願い、聞いてくれない?」
「ぐうっ…」
可愛い。可愛い。ついユキくんを思い出してしまう。中身は腹黒い大人だとわかっているのに、俺のセンサーがびんびん反応している。
「ざ、残念だけど、俺は別に、コネとか持ってないですから。閻魔にもさっき初めて会ったし」
「…そうなの?」
「はい」
「なーんだ。使えないの」
「へっ?!」
ミツルは俺からさっと離れ、俺の足元に唾を吐いた。
「じゃーね、043号さん。美湖に愛してるって言っといて」
ユキくんと、ユキくんと同じ顔で、俺にそんなことしないでくれぇぇ。
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