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92.王妃の現状
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クレイがリーネに会う為に第三部隊へと歩を進めていると、前から官吏を引き連れたルドルフがやってきたのでそっと脇へと下がり道を開ける。
けれどこちらに気が付いたルドルフが笑顔で声を掛けてくれた。
「クレイ。こんなところで会うなんて奇遇だな。今日はどうしたんだ?」
「ああ。これから第三部隊の方へ行こうと思って」
「そうか。第三部隊は先日陛下も視察して実に素晴らしかったと聞いた。私もちょっと見に行ってみようかな」
そう言いながら官吏達へと声を掛けてそっと仕事に対する指示を出すと、クレイと並んで歩き出す。
「第三部隊は初めて女性の隊長が任命されたと聞いたが、どんな感じだ?」
「ああ。リーネか。あいつは第一部隊にいただけあって優秀だぞ?最初は戸惑ったみたいだが、今は上手くやっていると聞いている」
「そうか。リーネと言うと前に会った彼女だな。仕事ぶりを見るのは初めてだから今から楽しみだ」
そうして二人で第三部隊へとやってきたのだが、そこでは今日は少し違った特訓が為されていた。
「へぇ…チーム勝ち抜き戦…か?」
どうもリーネが考えた4人一組でチームを作り、それぞれチームワークを発揮しながら戦わせると言うのをやっているらしい。
当然そこには得手不得手が出てくるはずだが、一緒に組ませる相手を考えて割り振っているのか、各チームに大きな差は出ないよう配慮されていた。
「なるほど。若いのになかなか人の力量を見極めるのが上手いな」
「自身の魔法も攻守ともにバランスがいいからできるんだろうな。リーネはまだまだ伸びるこれから楽しみな人材だと思う」
「ふぅん…クレイが認めるのなら相当だな」
そうやって話していると、リーネがこちらに気付いてにこやかにやってきた。
「クレイ!昨日は先に帰ってごめんなさいね?ロックウェル様に叱られなかった?」
「…なんだか色々誤解させて不安にさせてしまったようだったが、今朝ちゃんと蟠りも解けたし大丈夫だ」
「そう。良かったわ。あ、昨日のあの男は牢に放り込んでおいたけど、釈放されたら貴方の所に土下座しに行くって言ってたから、来たら踏みつけてやってね」
「…踏みつけはしないが、全力で逃げる」
「あら。でももう魔力もない状態だし、昨日みたいに貴方の魔力を奪うのに口づけしたりはしてこないんじゃないかしら?」
「襲われたらたまらないだろう?もう暫くこっちに泊ろうかと思うくらい怖かったんだ」
「意外だわ。クレイがそんなに怖がるなんて」
リーネは不思議そうに首を傾げるが、クレイとしては訪問者にいきなり眠らされ知らない間に媚薬を盛られて襲われそうになったのだから平気な訳がない。
「大体あいつは人の恋人の前でいきなり唇と魔力を奪ってきたんだぞ?!最悪にも程がある!」
「意外とそこがポイントだったのね」
「もちろんだ。それ以外の何物でもない」
「そう思うのなら、もう昨日みたいな失言をしちゃダメよ?あれはいくらなんでも酷かったわ」
「うっ…あれは俺も反省している」
あれから誤解されて悲しかったのだと肩を落とすクレイにやれやれとリーネが肩を叩いた。
「愚痴でもなんでも聞くから、ちゃんと仲良くしてね?」
「ああ」
そんなやり取りにルドルフが温かな目を向け、リーネへと話しかけてくる。
「なんだ。思った以上に角が取れて丸くなったな」
「え?」
「以前会った時より一回り成長したと思ってな」
驚くリーネにルドルフが楽しげに笑った。
「ふふっ…光栄ですわ。クレイにも私の良さがわかってもらえたらいいのに」
「おや?先程クレイにリーネの話を聞いたら絶賛していたぞ?まだまだ伸びていく優秀な人物だと聞いて私もこれから楽しみにしているのだが…」
「…クレイが?」
「ああ」
そっとクレイを見遣るリーネにクレイもそっと微笑みを返す。
「まあ本当の事だしな」
そんな返答にリーネがそっと頬を染めたのを見てルドルフがクスリと笑った。
「クレイは本当に罪作りだな」
けれど言われた当の本人は相変わらず何もわかってはいないようで、首を傾げている。
「まあいい。リーネ。実に良い物を見させてもらった。今度また覗きに来てもいいだろうか?」
「はい。いつでもお越しください。クレイも、また気が向いたらふらっと来てちょうだいね」
「ああ」
それじゃあと言って二人で第三部隊をでたところで、ルドルフはそうだったとクレイへと声を掛けた。
「クレイ。例の件で話したいことがあるんだが、今から時間はあるか?」
「ああ。別に大丈夫だが?」
今日は特に用もなかったのでクレイは素直にそう答えを返したのだが、それと同時にじゃあこっちへとそのまま別の場所へと誘導される。
「これからその件でショーンと打ち合わせようと思っていたところなんだ。内容が内容だけにここでは話せなくて悪いな」
「別に構わない」
そうして二人で連れだってショーンのいる場所へと足を向けると、そこには部下へと指示を出すショーンの姿があり驚いた。
「なんだ。ショーンって偉い奴だったのか」
「クレイ…。酷い言い様だな。これでも一応室長なんだが」
「いや。ただの王の飼い犬だと思っていたからな」
「ははっ…!まあいい。そんな陛下からお前に一言伝言も預かっている」
「なんだ?」
「法改正を急がせて少しでも早く男同士で結婚できるようにするから、その際はドルト様の記憶を戻して結婚式に呼んでやれ、だそうだ」
「なっ…?!そんなことできるわけがないだろう!」
最初適当に聞き流そうとしていたクレイは育ての父の名が出て驚愕に目を見開いた。
「父の記憶はこのままでいいから余計なことはするなと王に言っておいてくれ…」
そんな風にどこか憂うように俯いてしまうクレイを見て、ショーンとルドルフが顔を見合わせる。
クレイがドルトを気にしているのは明らかだ。
「そう言えば父上の片腕であるドルト殿はお前の育ての父だったか」
「…ああ」
「彼はいい父親だったか?」
「…いや。ほとんど会話らしい会話はしたことがなかったし…」
「そうか」
「ただ…最後に会った時の言葉で、俺の事をちゃんと考えてくれていたのがわかったから…」
嫌いではないのだとクレイは儚げに笑った。
そんなクレイにルドルフがさりげなく声を掛ける。
「私は、お前の気持ちが少しはわかる気がするな」
「?」
「私も実の父より育ての父の方が大事だと思うし、正直後から別の誰かが実の父だったとわかってもピンとこない。実の父の力になりたいかと言われたらそんなこともないし、正直好きにやってくれと思う。それよりも育ての父に認められたいと思う気持ちの方が強い。それは幼い日からずっと身近にいたのだから当然のことだと…そう思っている」
そんな言葉にクレイはそっと顔を上げる。
「私が実の父よりも陛下の方が大切なのと同じで、お前にとって陛下よりもドルト殿の方が大事なのは別に特別なことではないと思う。だから…憂うな」
「ルドルフ…」
「そうだな。来週の食事会の件はハインツから聞いたか?」
「え?ああ。四人で食事でもというやつだろう?」
「ああ。そのつもりだったが、お前さえ良ければ陛下とドルト殿も誘って一緒に食事でもどうだろう?恐らく自然に席を用意してやれると思うぞ?」
「え?」
「記憶操作云々は置いておいて、気持ちの整理に一度ゆっくりと話してみるといい。お前はハインツの教育係だから、そこを糸口に会話をすれば自然と話も弾むだろう」
そうやって微笑むルドルフの言葉にクレイがそっと俯き考えこんだ。
「……。考えておく」
「ああ。一応話は通しておくから、気負わずにな」
「ありがとう」
そんな風に話を終えた二人にショーンがにこやかに良かったと笑う。
「んじゃ、例の件をお話しても?」
「ああ」
そうしてショーンは王妃の件で調べたことを話してくれた。
「クレイから聞いた貴族の屋敷を調べたら、確かに王妃は療養と言う形で見つけることができた。でもやっぱり聞いていたように様子がおかしくてな」
「ああ。俺も眷属にその様子を見せてもらったが、ぼんやりしてて何かおかしなものを感じたな」
「それはやはりニコラス達が?」
「いや。ニコラス王子とノーティアス王子が絡んでいるのは間違いないんですが、あのジェイクロッドという貴族がもっときな臭くて…」
一概に王子達だけのせいとは言えないのだと言う。
「あそこに出入りしている者をしっかり催眠魔法も使って取り調べたんですがね、王子達が定期的に届けていたのがこの薬…」
そう言いながらそっとそれをテーブル上へと置く。
「これは思考力を低下させる類の物で、別に命を奪うような毒とは違うんです。ただ、常用すると廃人に近くなる危険な薬です」
「なっ…!」
「ルドルフ王子。落ち着いてください。まずは話を最後まで聞いてください」
そしてそれとは別にと言いながら別の薬を取り出した。
「こっちがジェイクロッドが王妃に飲ませていた薬…」
「違うのか?」
クレイが尋ねるとショーンはそうだと答えを返す。
「結果的に同じような症状になるから王子達は全く気付いていないが、こっちの薬は廃人になるような危ない物じゃない」
その答えにルドルフがホッと息を吐く。
それならばまだ救いはあるだろう。
「まあこれは巻き込まれた側のジェイクウッドが全責任をなすりつけられたくなくてこっちに変えている可能性が高いんですが、それとは別に香も焚いてるんですよね…」
調べた限りではどうも王妃の部屋で毎夜とある香を焚いているらしい。
「それがちょっと問題があるやつで、洗脳効果のある香なんですよ…」
これは魔法を使えないただ人が手にすることが多い物で、それを焚きながら言うことを聞かせたい相手の耳元で囁きを落とし続けると思い通りに動かせるようになるのだと言う。
そして更に調べた結果、どうもジェイクウッドも王宮の黒魔道士排除派の一員らしいと言うことが判明したのだ。
「そうやって洗脳してどう使おうとしているのかはわからないんですが、早めに救出するに越したことはないかと今日ルドルフ王子を呼び出させていただいた次第です」
「そうか」
そうして考え込むルドルフに、クレイが助け出すだけなら今すぐできるぞと言い出した。
「王妃が部屋に一人でいるタイミングで影を渡って連れ出せば問題はないだろう?」
その言葉にショーンも暫く考え込むが、何が一番良いのか結論が出ず、ここは王の意見も聞きに行こうという結論に落ち着いた。
「陛下」
ルドルフを筆頭にショーンとクレイが王の執務室へと入ると、官吏達がザワッとざわめいた。
それはそうだろう。
王を敬遠していたクレイが現れたのだから、何かあったのかと皆気にもなる。
王もこれには驚いたようで、すぐに別室で話を聞きたいと言い出した。
そして別室で王妃の話を聞かされて考え込んでしまう。
「そうか。ターシェが…」
「ニコラス達の気持ちもわかるだけに、そちらに話を聞くのは後回しにして先に母上を救出して保護してはどうかと思うのですが…」
「しかし何やら洗脳されているのだろう?助けに行った者に危害を加えてきたらどうする気だ?」
「そこはクレイに任せたらどうかと思ってこうして連れてきました」
「クレイに?」
「ああ。俺が影を渡って王宮まで連れ帰れば一瞬だし、そうそう危害を加えることもできないんじゃないかと思ってな」
「…私は反対だ」
三者が名案ではないかと思い口にした言葉は王の言葉であっさりと却下される。
「何事にも万全というものは存在しない。黒魔道士に行かせるなら王宮魔道士に任せるべきだと私は思う」
「…そうは言っても相手は王妃。一介の黒魔道士に頼むのは荷が重いのでは?」
「私はクレイがどう思っていようと、息子だと認めたのだ。危険な真似は出来る限りさせたくはない」
「……それは有難いが、こんな簡単な仕事でそこまで言われると黒魔道士としては信用がないようで腹が立つんだが?」
「お前が何と言おうと、何となく悪い予感がするとしか言いようがない。だからロックウェルと協議の上誰を救出に向かわせるか決定するように」
話は以上だと言われ、三人は黙って従う以外にない。
「かしこまりました」
そうして頭を下げ、三人はなんだか納得がいかないまま部屋を辞したのだった。
***
「まさか陛下があれほどまでに心配性だとは…」
「いや。クレイを思えばこそでしょう」
「ふざけるな!侮るにも程がある!」
「そうは言っても陛下の言葉も一理あるかもな…。たとえば目にわかるように襲ってきたらいいが、わかりにくい様に毒針でも刺してきたら眷属でも対処できないだろう?」
「う…確かに…」
油断していたところにそれをされるとさすがに自分では対処できない。
それは以前のリーネの眷属にやられた件を思い出して身が詰まされる思いがした。
「後は逆に油断したところを眠らせて逆に捕獲してくるとか…」
それもまさに昨日されたところで、耳が痛い案件だ。
ここは素直に王の言葉に従った方がいいような気がしてきた。
「……そうだな。じゃあ何か対策を立てて救出に行く方がいいな」
誰が行くかはともかくとして、白魔道士と一緒に行動させた方がいいかもしれないとクレイは口にする。
「何か会った時にすぐに対処できるだろうし、確かにそれはいいかもしれないな」
そして今度はロックウェルの執務室へとたどり着くと、同じように話があるのだと告げ別室で話を聞いてもらった。
「そう言うことなら確かに陛下の言うように王宮魔道士から人員を派遣した方がいいだろうな」
クレイに何かあっては大変だとロックウェルはすぐに魔道士を手配してくる。
「白魔道士一名、黒魔道士二名で行けば影渡りもスムーズだろう」
そう言って第一部隊の三名に声を掛け、極秘の任務にあたってほしいと指示を出した。
三名はその任務の内容に誇らしげに笑みを浮かべる。
「そのような重要な任務にあたれて光栄でございます」
「くれぐれも油断はせぬように」
「かしこまりました」
こうしてその翌日、早速王妃の救出が行われた。
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