アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
そのじゅうろく
-
今日の波瑠はおかしい。行動も、表情も、波瑠の見せる全てが初めてで、対処方法が分からない。
ホテルのエレベーターが重力に引かれるように下降していくのを体で感じながら、見つめる数字が一つずつ小さくなる程に呼吸が震える。チンッと軽い音が鳴れば、扉が左右に重々しくゆっくりと開いた。そこから続く赤い絨毯に消えていく自分の足音を聞きながら波瑠の背中を追った。
波瑠が止まり、扉にカードキーを差し込む。その仕草一つ一つに期待が高まる。最初から分かっていても、身体が先に思い出して期待する。
扉が閉まる前に続いて入れば、扉が閉じるよりも早く唇が合わさった。噛み付かれる様に合わさったかと思えば慈しむように交わされるそれは、呑まれ酔うには十分だった。
重なっては離れ、また重なれば今度は少し食むような動きをしてから離れ、それから、また重なる。繰り返し与えられるふんわりとした感触にゆっくりと気持ちも浮遊していく。
口内に迎えた舌に自分の舌を絡ませる。静かな部屋にくちゅくちゅと濡れた音が響く。舌先で上顎を撫でられるのが擽ったくてもどかしい。
俺がバーに着いてからというもの、波瑠は何かを飲み込むように何度もグラスを口元へ運んでいた。そのせいでいつもよりペースが早かったが、多分気付いてないだろう。
腕に触れてきたと思えば、その横顔にのる瞳があまりにも、薄暗い空間を照らす暖かな照明の中で、あまりにも色をなくしていたから……俺はそわそわと擦られるその手から腕を引けなかった。
極めつけはアレ。
『飼い主が欲しい』
あれは一体何だ。
波瑠自身が混乱している様を迷子と言ったのは俺だ。そこから出てきた単語が飼い主。
犬か?まぁ大型犬っぽいっちゃぽいけど……でも迷子になるっつったら子猫だろ。
ワイシャツの上から体を撫でる波瑠の手がボタンを外していく。その間も口内では舌が快楽を引き出し続ける。
今日初めて波瑠を見た時のあの、笑顔と雰囲気のちぐはぐな感じは去年見た姿に似ていた。あれもいまだに分からないけど一年も前の事だ。もういい。
問題はその後だ。腕を強く握られてから。こんな風に、赤くなる程の力で掴まれたことはない。あの時既に、波瑠は調子を狂わせていたんだと思う。
それから写真。いつもなら断れば身を引く……いや、そもそもああいう誘いはしてこない。
…………アイツ、だろうな。
過ったその顔にそうだろうと思いながらも、彼の何が波瑠を刺激したのかが分からない。俺の知る限り二人に接点はない。友人からなら兎も角、波瑠の口から彼の名が出たことは一度もない。
そもそも友人に波瑠を紹介していないし、今日のやり取りを見ても知り合いだったとは思えない。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
16 / 24