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修学旅行二日目。
朝になったら真島から謝りのメッセだの電話だのくるかと思ったが、アイツはなにも寄越さなかった。
頭冷やすとは言っていたが、まだ怒ってるんだろうか。
「今度はお前が辛気臭い顔してんのかよ」
朝食を食いながら音沙汰無しのスマホを見ていると、ヒビヤンに指摘される。
ヒビヤンの方は朝になったらもうケロッとしていて、寝たら忘れるタイプかコイツ。
「…真島を怒らせた」
「えっ、マジで。それは逆にすげーな」
「さっさと謝りてーんだけどなんて言ったらいいのか分からん」
「お前それはフツーに『ごめんなさい』でいいだろ」
ただの喧嘩だったらそうだろう。
でもあいつの求めている言葉は『ごめんなさい』ではなく『好きだ』だ。
告白は出来ない。
ならどうやってアイツの機嫌をとればいいんだ。
「ひょっとして昨日の風呂の件か?だったら俺も悪かったし――」
「ああいや、そういうことじゃねーんだ。もっと根本的な問題っつーか…」
「なに」
聞かれたが、押し黙る。
というかこんな爽やかな修学旅行二日目の朝に話すような話題でもない。
せっかく高校生活の思い出を作る旅行なんだ。
こんな重苦しい気持ちで過ごすなんて勿体無い。
「ああもういいや。それより今日どこ回るんだっけ?」
無理矢理話を切り替えたら、ヒビヤンにジトッとした目で見られた。
「お前人には相談しろっていうくせに。あーサミシー。拗ねよ」
「別にお前が拗ねたところでどうでもいいけどな」
「何それそっちのほうが傷つく」
そんなやり取りをしていたら途中から今日一緒に回る班員が参加してきて、結局この話は中断となった。
今日は男女三人ずつというグループで回ることになっている。
当初は真島と抜け出して、なんてヒビヤンにも言われて少し乗り気になったが、今の俺達じゃそんなの到底無理だ。
朝食を食べ終えてから、予定通りホテルを出発する。
全体行動と比べて自由行動のほうが開放感もあって、特に今息が詰まったみたいな俺にはちょうど良かった。
食べ歩きをメインに寺やら神社やらを巡る。
やはり観光地ということもあって見たことのない建造物や文化財はどれも圧巻で、俺達はそれなりに修学旅行生らしく楽しんでいた。
他の班員もあちらこちらで目にして、各々喜々とした表情を浮かべている。
「お、あれ食いたい。ご当地ソフトクリーム」
俺の提案で屋台売りされているそれを買って、少し休憩することにした。
何気なくスマホを見てみたが、やはり真島からは何も来ていない。
モヤモヤと胸中を支配する気持ちに、ため息を吐き出す。
「待ってるくらいならお前から送ってやれよ」
不意にコツンとヒビヤンに後頭部を小突かれた。
全くもってその通りすぎるが、よくよく考えたら俺から折れたという記憶がない。
真島が好き大好き離れたくないごめんなさいと呪文のように毎回唱えるせいで、変な待ち癖ついちまったじゃねーか。
「…そうなんだけどさ」
だが送る言葉が思いつかない。
結局ぐだぐだしている間に時間ばかり過ぎていってしまう。
それから何事もなくルート通りの観光をして、少し時間が余ったので買い物をしたいという女子のリクエストを聞いて土産屋を見て歩いた。
何があっても絶対に買ってこいと母親に言われた生八ツ橋を選んでいたら、ふと右手に巻かれたミサンガが目に入る。
これを見る度に、どうしても真島の顔が頭に浮かんでしまう。
もう二日目の自由行動も終わりかけているというのに、それでも真島からは何もこなかった。
そういえば前に鼻血だして頭冷やせって言った時は三日時間があいたし、まさか今回もそのつもりなんだろうか。
三日間も待ってたら修学旅行が終わってしまう。
買おうとしてた生八ツ橋を置くと、俺はスマホを取り出す。
やっぱり待ってるだけじゃ駄目だ。
そう決めたら他の班員が出てくる前にさっと店から出て、スマホを握りしめる。
とりあえず謝ろう。
それからのことはそれから考える。
そう決意して電話を掛けようとしたが、不意に後ろから声を掛けられた。
「あれ、高瀬じゃん。お前らもこの辺回ってたんだ?」
振り向けばクラスメイトがいた。
まあ大体観光名所巡り終えてから見るところなんて土産屋と決まってるから、会ったっておかしくはない。それよりコイツら、昨日俺を置いて女子と楽しみやがったな。
同部屋の奴には文句済みだが、人に誘わせておいて置いてくとか信じられん奴らだ。
とはいえ結局自分の意思で行かなかったわけだが。
「お前も日比谷もこないから女子残念がってたぞ」
「え、マジ。それは嬉しい」
「盛り上げ役は必要なんだろ。今日は来いってさ」
「おー…つかさらっとひでー事言うな」
そんな会話をしてたら、班員が出てきてしまった。
せっかく謝ろうと決意した気持ちが折られてしまって、スマホをポケットへ滑らせる。
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