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「――ダメだ」
いつの間にか二人だけになった屋上に、俺の言葉がはっきりと響く。
「…は?別に奏志がお前を捨てて俺を取るだなんて、お前だって思ってねーだろ。告白くらいさせろ」
「いや、ダメだ。それは俺が困る」
そう、貞男に告白されては困る。
困るのは真島でも貞男でもない。
俺が困る。
「いやなんでお前が困るんだ。別にお前は俺の事ライバルだともなんとも思ってねーだろ。奏志の事を好きな俺を、ずっと茶化してたような奴じゃねーかっ」
苛立ったように貞男が俺に詰め寄る。
だけど俺も貞男から視線を外さなかった。
「俺は別に他の誰が真島に告白したっていいと思ってる。他のどの女に真島をとられても仕方ないと思ってるし、いつかはそうなればいいと思ってる」
目の前の青い瞳が、不審げに細められる。
「けど俺はお前だけには、真島をとられたくない」
「――な、なんだよそれ。意味わかんねえ。取られたくねーなら別れるとか言うんじゃねーよ」
「…真島とは別れるよ。だから貞男も真島を諦めろ。一生告白なんかすんじゃねえ」
「は?何いってんだお前。言ってる意味が全然わかんねーよっ」
「――分かれよっ」
声を荒げてしまう。
心臓が嫌な感じにドクドクと言っていた。
貞男にとられるくらいなら、俺が真島とずっと一緒にいるに決まってる。
「真島は俺を好きになるような奴だ。男も女も好きになる基準は関係ない。きっと俺がいなくなったら、真島が次に好きになる可能性が高いのは、お前なんだよ」
「梅乃、お前何言って…」
「他のどんな女に真島をとられてもいい。けどお前だけは、絶対認めるわけにはいかない」
そう言い切った俺に、貞男が驚いたように押し黙る。
それから何か気付いたように、その青い瞳が揺らいだ。
「…梅乃、お前もしかして――」
俺も貞男も、どっちも男なんだ。
貞男はそりゃパッと見はドエライ美人で女に見えなくもないが、それでも男だ。
それじゃあどっちも真島を幸せにすることなんか、出来ない。
真島は優しい奴だから、貞男がずっと真島を追い続けていたらいつか絆される日がくるかもしれない。
でもそれじゃあ俺が別れる意味がない。
俺は絶対に真島には真っ当な人生を送ってもらいたい。
当たり前に女と付き合って、当たり前に人前で手も繋げる、家族に笑って紹介していつか結婚だって出来るような、そんな普通の奴に俺が戻してやらないといけない。
それが唯一俺ができる、アイツのためにしてやれることだと思っている。
「…そうか。だからお前卒業式に別れるとか制限設けて――」
貞男に言うつもりはなかった。
だがコイツが真島に告白するとか本気で言い出すから、動揺して全部ぶちまけてしまった。
貞男に告白なんかさせるわけにはいかない。
真島が好きになる男は、一生に一度俺だけでいい。
「…全部奏志のためにってことかよ。…でもそんなの…それじゃ今のお前の気持ちは――」
呆然とした顔で呟くように言った貞男の声が、震える。
宝石のような青い瞳から、ぼろりとなぜか涙が溢れた。
なんでコイツが泣くんだ。
「…俺の気持ちなんかどうだっていいんだよ。時間さえ経てばいつか忘れる日が来るはずだ。…だからこそ俺が好きなことは、真島に知られるわけにいかない。アイツに変な未練を残したくねーから…」
そこで俺は一度言葉を区切る。
一つ息を吐き出して、改めて貞男を見返した。
「お前も絶対に今聞いたことは、真島に言うんじゃねーぞ」
「そ、それは――」
貞男の視線が彷徨う。
コイツは真っ直ぐな奴だから、真島の気持ちを見兼ねて言ってしまう可能性が高い。
だがここで貞男に全てを言われてしまったら、それこそ本末転倒だ。
俺は頭をフル回転させる。
貞男が好きそうな言葉はなんだ。
真島に言わせないための言葉はなんだ。
――そう、これだ。
「いいか貞男、俺とお前の――男と男の約束だ」
そう言ってグッと拳を突き出す。
貞男はぼろぼろと隠さずに号泣していた。
コイツ泣き方も男らしいな。
「こ…っ、これはお前のための涙なんかじゃねえっ。絶対に違うっ」
「ああ。分かってるよ。お前が俺を大ッ嫌いなことは最初から知ってる」
「…お、俺は納得してない。奏志に告白するかもしれないし…っ、お前の言う通りにしてたまるか…っ」
「いいや、お前はしない。だって許可取りに来たんだろ?俺の」
そう言ったら、貞男の目が見開く。
きっと貞男は俺が勝手にしろよ、とでも言ったら告白するつもりだったんだろう。
真島をこれほど大事にしている奴が、これだけ真っ直ぐで男らしいやつが、俺の言葉をないがしろにしたりなんてしない。
「…くそ、やっぱりお前は嫌いだ…っ。…本当に、本当に最低のウソツキ野郎だ…っ」
どうやらゲス野郎を経てビビり野郎から今度はウソツキ野郎に移行したらしい。
だが貞男は俺を罵りながら、自分の拳を俺に合わせてくれた。
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