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少しずつ人気の無くなっていく校舎を歩く。
それぞれが別れを惜しむ姿がまだチラホラ見受けられるが、大体の生徒はもう校舎から出ていったようだ。
真島が来るまでにまだ時間はあるし、俺はせっかくだから校舎内を少し歩くことにした。
真島との思い出の場所を、歩く。
昇降口は、体育で大雨の日に真島が迎えに来てくれたことがあった。
そこから伸びる体育館への道はなかなかの鬼門で、文化祭でミカ先輩と一緒にいるところを目撃されたり、七海と一緒にいるところを目撃されたり、挙句の果てにしばらく弁当いらない宣言したり、真島にとっても苦い思い出の場所だっただろう。
その先にある体育館。
情けない奴だと思っていたのに、やっぱりめちゃくちゃ格好良い奴だったバスケの試合。
ああそれから、文化祭の劇をしていた姿も格好良かった。
今年の文化祭では、ヒビヤンのヘッタクソな歌をBGMに、真島とキスしたんだっけか。
体育館前の渡り廊下から続く学食。
真島と初めて飯を食った場所で、あの時からアイツに弁当を作ってもらう日々が始まった。
アイツの料理の才能は今思えばそこから完全に開花して、今じゃ弁当に留まらずいっそ料理教室でも開けと言わんばかりのレベルだ。
教室棟へ引き返す。
その道すがらにある中庭では、真島の部活が終わるのを待っていた。
去年の在校生代表挨拶の前に真島と会って、人目を盗んで触れられた記憶もある。
そのまま真っ直ぐ特別棟へ。
真島に連れてこられた実習室。
雨の日御用達のこの部屋で、真島は鼻血を出したり、俺は約束を破ったり、ああそうだ、真島が本気で怒った姿を見たのもこの場所だった。
俺の誤解だったとはいえ、あの時の真島はかなり本気で怒っていた。結局最後はいつも通り泣いたが。
とりあえず真島贔屓でせっかく鍵を貸してくれた数学教師に、アイツは謝ったほうがいい。
そして教室棟へ戻り、階段を昇っていく。
おそらく一番真島と過ごしたであろう場所へ。
そう、屋上だ。
扉を開け放つと、気持ちの良い風が俺の髪を通り抜けていく。
ここにはもう言葉じゃ言い表せないほどの思い出が詰まっている。
俺達は必死に、誰にも見つからず触れ合える場所を探していた。
この場所で何度も愛を囁かれ、何度も真島を泣かせ、何度もお互いの身体に触れ合った。
本当に大切な場所だ。
楽しい思い出も、悲しい思い出も、両方の記憶がたくさん残っている。
一つ深呼吸をする。
透き通った春の匂いが、体いっぱいに広がっていく。
――もう、行かないと。
俺は最後の思い出の場所、真島との始まりの場所である教室を目指す。
廊下にはすでに誰もいなかった。
人気のない教室に足を踏み入れる。
真島はまだ来ていない。
卒業おめでとうと女子が賑やかに書いた黒板が、そのままになっている。
始まりの場所と言っても、さすがに二年の教室ではない。
俺は自分の席まで歩くと、カラリと横にある窓を開ける。
ふわりとカーテンがはためいて、桜の花びらが舞い込んでくる。
机の上に腰掛けて、真島を待った。
心臓が酷く鳴っていたが、どこか覚悟したように俺の気持ちは落ち着いていた。
教室での思い出もたくさんある。
真島は毎日昼休みになると、飛び跳ねる勢いで嬉しそうに弁当を持ってきた。
放課後だって毎日のように俺に会いに来てくれた。
俺が帰るのをいつも名残惜しそうに見送っていたのを知っている。
それから演劇の衣装に包まれた真島の姿。
まるで本物の王子かと見紛えるような姿をした真島が、俺の前に跪き手の甲へ口付けを落とす。
あの日俺はきっと、真島に恋をした。
自分から手を伸ばして、真島と初めてのキスをした。
だけどそれより何より、一番衝撃的な思い出は。
『好きだ。…大好きなんだ。これ以上はもう隠せない』
夕日に染まる教室で、ボロボロと泣く真島の姿。
きっと一生忘れることのない、学園のプリンスが晒した初めての情けない姿。
あの日俺が真島を断っていたら、今こうしてここにいることも、こんな気持ちになっていることもなかっただろう。
何も持っていなかった俺に、あの日から真島がたくさんのものを与えてくれた。
受け止めきれないほどの愛情と幸せを、与えてくれた。
高校生活をこんなに全力で過ごせたのは、全部、全部真島のおかげだ。
アイツに出会って、俺は本当に幸せだった。
教室の扉が開く。
相変わらず溢れるほどの愛情を宿した瞳が俺を見つめる。
俺も同じように愛しい気持ちを抑えきれず、その綺麗な瞳を見上げた。
「高瀬くん」
「真島」
俺は今、答えを告げる。
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