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だけどこの頃から時たま高瀬くんの表情が苦しそうに歪む事があった。
それは見逃してしまうようなほんの一瞬だけど、俺が彼の表情の変化を見逃すはずがなかった。
どうしてそんな顔をするんだろう。
なにかしてしまったかな。
本当は俺といるのが嫌なのかな。
それでも久しぶりに会えば頭が真っ白になって彼を求めてしまう。
必死に気持ちを抑えて高瀬くんの表情を観察してみるけど、彼の考えてることは分からない。
なにか嫌なことがあるのなら相談してくれればすぐにでも全力で応えてみせるのに。
だけど高瀬くんは俺に決して泣き言を言ったりはしなかった。
また酷く不安な気持ちに襲われそうになったけど、落ち込んでいる時間も俺にはなかった。
本人に聞いても教えてくれないし、あっさりとはぐらかされてしまう。
ならもういっそ彼の悩みを探すのではなく、彼の望むことを探してみたらどうだろうか。
俺といる時間を少しだって楽しんでほしい。
苦しい顔をさせないように、喜んでくれることをたくさん探してみよう。
彼の望むことを探して、やりすぎないように自分の気持ちを必死に抑えて。
何が嬉しいのか、何は許してくれるのか、何をしたら少しでも笑ってくれるのか。
たくさんたくさん表情を探した。
勉強で忙しくて会えないときはほんの数分でも毎日電話した。
その声を聞いて、今元気なのか嫌な思いをしていないか必死に探した。
電話での声はいつもどことなく抑揚はなくて、彼の声を聞けて幸せだけどハラハラした気持ちになってしまう。
もしかして電話自体があまり好きじゃないのかな、とも思ったけど高瀬くんはしたくないことはハッキリと言う性格だ。
ならそれは違うと色々と理由を考えて、ある時ふと気付いた。
たぶん彼は電話が苦手なのではなく、一人でいることが苦手なんじゃないだろうか。
考えてみれば彼は一人っ子で、お母さんはいつも夜いなくて、猫さんはいるけどそれだけではすごく寂しいはずだ。
俺も両親は子供の頃から仕事で家にいなかったけど、でも俺には兄姉がいたし家政婦さんもいた。
少なくとも家で毎日一人きりになることはなかった。
「高瀬くん、もうすぐ終わるからね。もう少し待っててね」
センター試験前日、時間を合わせた登校日の屋上で俺は彼にそう告げた。
彼が俺を待ってくれているのかは分からないけど、少なくとも受験さえ終われば彼を一人にさせることはなくなる。
寂しい思いなんて、俺が絶対にさせない。
そう思って告げた言葉に、高瀬くんは本当に嬉しそうに表情を綻ばせて笑ってくれた。
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