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お風呂
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「雫。」
律兄ちゃんの僕を呼ぶ声に、頭の中で1人しりとりを開始して床の上に正座する。目を閉じると般若心経、世界の地名、歴代総理大臣、その他諸々、律兄ちゃんに洗ってもらう間、僕はその日のお題を決めて気を紛らわす。
そうやって頑張ってみても、やっぱり美容師さんだからか律兄ちゃんの洗髪は気持ち良くって、ついつい意識が頭から律兄ちゃんの大きくて、でも優しい指に移ってしまう。
その大きな手が僕の頭を撫でて滑るように頬へ、指が僕の唇を確かめる様に撫でて、首へ鎖骨へ。
って、ダメダメ。
また僕のいらない妄想が始まってしまって、高まる鼓動と赤くなる全身を紛らわす様にお題をクリアしていく。
シャワーでシャンプーを流してもらうと、次は身体を洗う番だ。
頭の時とは違ってタオルで洗ってもらうのにシャンプー以上に緊張してしまう。
柔らかいタオルが背中を滑る。
僕の貧相な身体を律兄ちゃんが見てるのかと思うと今にも僕の頭は爆発しちゃいそうで、背中から腕を洗ってもらった瞬間。
「あっ、後は…じ、じじ自分で、っ…するから!!」
「お、あぁ。」
律兄ちゃんからタオルを奪う様に取ると急いで他を洗っていく。律兄ちゃんが後ろで自分に付いた泡を流すと湯船に浸かる。
ちらりと律兄ちゃんに視線だけを向ければ、僕の方を見ていて、恥ずかしさで動揺するのを隠す事も出来ず、ただ慌てて泡を流しタオルを洗った。
「ぼ、僕、先に上がるから!!」
脱皮の如く浴室から出ると、もたつきながらも身体を拭いてTシャツに短パンを着てリビングへ走った。
心臓がもたない。
タオルで顔を覆ってソファーに俯せに寝転ぶ。
心臓はバクバクと身体全体に鼓動を送り、僕の口からは荒い息が漏れる。
怪我をしてから2ヶ月近く、お風呂は僕にとって一番緊張して恥ずかしいものになっている。
ソファーのクッションに顔を埋めて、落ち着くのを待っているとお風呂から律兄ちゃんが出て来る音がする。
ペタペタと音をたてリビングに入ってくると、そのまま冷蔵庫へ向かう。それから僕の側まで来ると頭の上辺りが沈んで律兄ちゃんが座った事がわかった。
「雫、また逆上せたのか?」
頭の被せたタオルで僕の頭を拭きながら聞いてくるのに言葉もなく頷いた。
「前は良く長湯してたのにな?」
そう、僕は長湯だ。
熱くも温くもない湯でのんびりするのが好きで、たまに浴槽の縁に凭れて寝ちゃう事もあったりして、兄ちゃん達に心配された。
でも、そんなのんびりした気分で律兄ちゃんと一緒にお風呂なんか入れるわけがなくって、ここ2ヶ月余りこんな調子だったりする。
けして、逆上せた訳じゃないけど律兄ちゃんはそう思ってるみたい。
「ほら、水飲め。髪も乾かさないと。」
差し出されたペットボトルを受け取り喉を潤すと、ドライヤーを準備した律兄ちゃんに髪を乾かしてもらう。
疲れる。
お風呂に入って、ドライヤーで乾かし終わるまでは僕にとっての苦行みたいなもんだ。
早くギブスが外れてくれないかと切に思う。
でも、今日は愛美さんが来てたから余計疲れていたのか、律兄ちゃんの指が気持ち良くて、乾かしてもらう途中なのにうとうとしてしまう。
「雫、眠いのか?」
「…ん」
少しずつ思考が鈍ってきて頭が揺れ、それがまた気持ち良い夢へ誘っていく。
もう少しばかりしか残ってない意識の端でカチリと音が聞こえたかと思うと次に浮遊感がやってくる。
少しヒンヤリとした柔らかさに触れると僕の思考はプツリと消えた。
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