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仕事帰り 漆
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「黒川さんっ!?」
__こんなになるほどだったの!?
黒川は虚ろな目でこちらを見ていて、まるで助けて、と訴えているように感じるくらいだった。
奏は、黒川がもう運転が出来ないことを悟った。
なにもできず、手を出そうとして出せず、助けようとして助けられず、声をかけようとしてかけられず__。
奏は自分が可笑しいレベルで緊張していることをしった。
交通事故へ繋がりかねないという恐怖心と、自分の命が欲しいか、という二つの選択ししかないのか、で、それが大きかったんだと思っては生きていた。
心配しながらも、解決策を模索する。
なにせ、それ以外に方法はない。
赤信号までの距離は100m以上、時速60kmで進んでいる車は、時折変な方向に曲がったり、急にスピードが上がったりしている。
おそらく、それは黒川の両手がハンドルに乗ったままであったため、そして、足がアクセルにおかれたままだったということなのだろうけれど。
真っ暗な、シャッターばかりがしまる商店街を、一台の車が不穏な音を立てながら走行している事について、知っているのはどうやら奏と黒川だけのようだった。
黒川も、知っているとは言い切れないかもしれないが。
「か、な、でさ、ん__」
黒川は奏にすがるような目をしてそういってから、その目を閉じた。
それと同時に奏は、黒川の過呼吸の音が聞こえなくなるのを感じた。
「えっ__!?」
__まさか_!!
嫌な予感しか、しなかった。
黒川の手首に素早く手を回し、少し強く握る。
奏の強く絞まる手に、黒川の血管が圧迫されて、大きくドクン、ドクン、と脈打つ。
「よかった、生きてた」
奏は、病気だの症状だのの類いは全く判らないため、気絶や失神でも過剰な対応をとる。
人が苦しんでいるところを見たくない、身近な人を失いたくない、というのが大きいのかもしれない。
ほっとしてため息を吐こうとしたが、そんな暇はなかった。
信号が迫っている、急がなければ追突してしまいそうだった。
黒川が気絶の直前にハンドルを少し切ったらしく、このままでは信号機に衝突しかねない状態だったのだ。
奏は急いで黒川の両手をハンドルから離し、正常な位置を向かせた。
その後に黒川の細い脚が支配しているアクセルを、脚を退けさせることによって踏ませないようにした。
__どーせ起きたら、ガソリンが異常に減ってる的なこと言われるもんねぇ。
ブレーキをゆっくり踏んで、できるだけ黒川に負担を掛けないように車を停車させる。
奏の集中している姿は、見ている人を魅了するような力があった。
勿論、奏本人は気づいていないうえ、それを知っている黒川も気絶しているため、今の姿の魅力を知っている者は誰一人居ないのだが。
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