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猫の主 参
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「仕方がない、わよね」
近藤は急に顔を上げると、蛍光灯を透かせて、夜空を仰ぐように見た。
そこにもしかしたらあの猫の霊が出ているような、そんな気がしたのかもしれない。
そこで奏は、大事なことを思い出した。
__あ、やっべ、これ渡さないと。
「あ、あの__」
奏は本当はあまり触りたくなかったのだが、黒い袋に入れられたそれを差し出した。
近藤が怒るかもしれない__まぁ温厚そうなのであまり激しくは怒らないと思うが__と思い、控えめかつ小さな声でそういった。
近藤はこちらを向くと、それをみて一瞬顔を曇らせてから、悲しい笑顔を作って大事そうに受け取った。
一言、ありがとうと言って。
少し血なまぐさい匂いが辺りに充満し、思わず奏は顔をしかめた。
手を離しても、その匂いと重みが残っていた。
それは骸となっても命の重みを感じさせるものだった。
奏は目を伏せて、そっと粗末にしてしまった命をぬぐった。
「奏、いったん出ようか」
そんな奏に坂口はそういってきた。
なんでそんなことを言ってくるのか、命に支配された奏にはわからなかった。
「なんで」
口をついたのかそう出ていた。
坂口がすこし驚いたような顔をして、そして困ったような顔をする。
「あ、すいません、ちょっと外の空気吸ってきてもいいですか?」
坂口は何か思いついたような表情を浮かべた後、いきなりそういった。
あまりにも急だったので、近藤も「あ、え、ええ」とすこし戸惑いながら答えた。
奏は困惑したような表情を浮かべるが、やがてはぁとため息をついた。
__一回決めるとめんどくさいからなぁ。
放っておこうか、そう思っていたところだった。
だって、この状況下で外に出るのは失礼だろう。
たしかに部屋には血の匂いも充満していたし、気分が悪くなるのもわかるが、もう少し節目ができてから行った方がいいと思っていたのだ。
まぁ、勿論奏はそうするつもりだった。
そうするつもりだった、のだが。
坂口が手首を引っ張ってきて、強制的に外に連れて行かされた。
奏は少々嫌そうな表情をしたが、実際抵抗はさほどしなかった。
__うう、気持ち悪い。
実際奏自身も気持ちが悪くなっていたのだ。
もうあらがえる気力すら残っていなかったし、やはり反抗すると怖いからということもある。
「少しは自分優先にしろよな?」
坂口は優しくそういった。
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