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坂口と奏 弐
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「ここのパンって、本当にうまいよな、俺好きだなぁ」
「うん、俺も好き、とってもおいしいもんね!」
何気ない会話を、二人は楽しんでいた。
しかし、心の中に渦巻くものはそれぞれ。
奏が思うのは、パンのこと。
坂口が思うのは、奏のこと。
そう、この時から__否、出会った時から、坂口は奏が好きだった。
本当に坂口が子のパンが好きな理由は、パンの味もまぁそうなのだが、それとは違った理由が存在した。
ひとつは、奏が好きだから。
奏が好きなものは坂口も好きだ、味なんて関係なく。
ふたつめに、奏の表情が見れるから。
奏はこれを食べると、ほっぺたを膨らまして、いつも幸せそうな顔をする。
坂口はその表情が、何よりも好きだったから。
みっつめに、これを食べる奏の仕草が、とても好きだったから。
口にほうばった時、中に入っているカレーがよく、口の端につくのだ。
それを舐めとる仕草が、大好きだったから。
「あら、ありがとうね」
いつの間にか、おばさんはレジの前に来ていた。
その手には、カレーパンが4個。
「なんで4個も持ってるの?」
奏が聞くと、おばさんは「二人がいいことを言ってくれるから、サービスよ」といって、一人に2個ずつ渡してくれた。
奏は表情をぱぁっと明るくして、「ありがとう」といった。
坂口も、「ありがとう」という。
__裏があるな。
そう思いながら。
このおばさんは、昔から坂口たちを嫌わない。
道でよける奴らなんかとは違って、優しく接してくれる。
クラスメイトも、奏以外は町の奴らとおんなじで、みんな避ける。
だから、このおばさんは坂口にとってとてもいい人だった。
__聞いてみるか。
敵対している組が何か仕掛けた可能性もあるからだ。
「でもやっぱりおかしいよ、ねぇ、ほんとのこと、聞かせて?
誰にも言わないから」
それを聞いて、おばさんは一瞬曇った表情を浮かべたが、すぐにいつもの気前のいい笑顔に戻した。
「本当に勘の鋭い子ねぇ。
わかったわ、ほかの人に言わないでね」
おばさんははぁと一つため息をついた。
「そろそろ、ここを閉めようと思ってるの」
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