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黒川と一生合えない思い人 弐
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自分は目を開けると、そこは見覚えのある景色だった。
__なんだ__、夢ですか。
一番初めに思ったのはそんなことで、次に思ったのはもう見たくない、だった。
いつでも思い出せるが、一生忘れられないこの記憶。
それにもう、うんざりしていた。
だだっ広い草原に、さほど澄んではいないが、都会よりはまぁまぁ澄んだ空気、そして澄んだ空が広がっていた。
雲は小さなものが一つか二つ浮かんでいるだけで、後は太陽と、その光で掠れた月が浮かんでいるだけだった。
そこに寝ころんでいた黒川は、すくっと立ち上がる。
その黒川は、今の黒川ではなく、昔の黒川だった。
白い半袖に黒い半ズボンを履いていて、だいたい歳は8歳くらいだった。
だいたい今の風貌と似ていて、唯一違うのといえばその前髪くらいだ。
いつもはきっちりと別れている前髪が、きちんとは別れていなかった。
まぁ、それでも6.5対3.5くらいにはなっていて、ほとんど同じだったのだが。
それを見ている今の黒川は、傍観者としての立場しかないらしく、流れていくその記憶をただただ傍で見つめることしかできなかった。
しかし、実体はあるのか、いつもの黒いスーツをきて、白い手袋をしていた。
多分、この服装で熱くないのは、夢だからなのだろう。
夏服の昔の自分と冬服の今の自分の間に、文字通りの温度差を感じながら、いつもと同じような空気を吸い込んだ。
懐かしい匂いを感じた気がした。
昔の黒川は、何を思ったのか走り出した。
その意思が伝わってはこなかったものの、自分の記憶だから、何を思っているのかはわかった。
急がないと、と思っている。
当時自分の時計だなんて持っていなかったから、大体自分の影を見て時間を把握していた。
確かこの陽の高さからして、そろそろ夕方の5時近くだろう。
慌てて黒川もその姿を追いかける。
確かこの先は家に向かったはず、この見晴らしのいい草原から家までは、当時の速度で走って15分ほどだったため、少し体力が心配になったが、前を行く足があまりにも早いもので、ルートが分からなくなっては困ると結構速く走った。
__夢ならば、この事実をも変えられるでしょうか。
胸には、淡い希望を抱きながら。
しかし、心のどこかではわかっていた。
傍観者である自分が、変えられるわけがないと。
しかし、たとえ夢でもそんな状況を変えられないだなんて、あまりにも虚しすぎる。
だから、走った。
全速力で。
それでも、昔の自分には追い付けなかった。
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