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何も知らない奏 伍
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「何を言ってるんだい?
気付かなかったのは、君じゃないか。
疎かったのは全部君だよね。
僕に濡れ衣を着せようっていうのかい?
ははぁ、馬鹿になったね、奏君。
まるで恋に溺れて盲目になっている、可哀想なヒロインだよ。
たとえるならば、だけどね。
そうだ、昔の黒川ちゃんだよ、君は!!
最高だね、君は黒川ちゃんと、自らが愛する人の過去と重なることができたんだ!!
どうだい、嬉しいだろう?
僕に感謝したらどうだい、なぁ?」
月光はマシンガンのごとくずっとしゃべり続けている。
しかし、奏にとってはそれはただただ淀んだ空気であり、それ以上でもそれ以下でもなかった。
「なぁ、もう一回言うよ?
ねぇ、嬉しいだろう?
君は黒川ちゃんとおんなじになれたんだ。
どうだい、嬉しいだろう?
なぁ、嬉しいよな?
僕に感謝しろよ!!」
「__はい」
奏の心の中には、何もなくなってしまった。
__そうかこれは喜びなのか。
だから涙が出るんだ。
嬉しくて、喜んでて、だから。
じゃあ、月光さんに感謝、しなくちゃ。
「ありがとう、ございました」
それでも空気は、淀んでいた。
ピコンっ。
暗い空気の中。
余りにも似つかわしくない景快かつ明る人工のの音が響いた。
人工の冷たい光が、部屋を少しだけ明るく照らした。
「あれ、奏君ってMINEやってたよね?」
「ええ、はい」
MINEとは、最近流行っているSNSの一種であり、従来のチャットと、相手についていろいろ知れるSNSの長所とを合わせたスマートフォンアプリである。
もちろん、奏もやっていた。
「これ僕のアカウント、QRで認証してくんない?」
「あ、ええ」
右のズボンのポケットからスマートフォンを取り出す。
MINEを開いて、目の前が一瞬真っ白に染まる。
目が慣れていなかったからだ、こんなに目が痛くなるのは。
コードにスマートフォンをかざすと、月光というネームと、カクテルの画像が表示される。
月光の顔を見やると、刻々と頷くものだから、追加と表されたボタンを何のためらいもなく推した。
「よし、奏君とこれでいつでも連絡が取れるようになるね。
今どきのSNSってホントに便利だよね」
スマホから視線を離すと、目の前に月光の顔があった。
「ね、奏君」
「__はい」
月光が出て行ったあと、奏は現実と空想の中を歩いていた。
と、誰かにぶつかった。
「さっき、月光と話してたのか?
奏」
坂口の聞きなれた声だった。
「あいつはな、言っちゃ悪いが洗脳師だぞ。
半分以上信じるな」
「そんなのは嘘だよ。
だってあんなにも、優しいじゃないか__?」
奏はそう答えると、また歩き出す。
その時の目はまるで死んだ魚。
死んでいたのだ、彼の心は、月光の手によって。
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