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詐欺みたいな電話の話し方である。咄嗟に、白摩は携帯を耳から遠ざける。が、話は矢継ぎ早に続く。
『今、ピキーンと来たんだけど!!思い出したんだ!!佐々、大学の時に一度だけゴネてバンドメンバーと大喧嘩したことあって!!』
「はぁ…。」
相槌を打つ隙のない。興奮しているのか。楠田は早口で捲し立てる。
『その時さ、何をゴネたと思う!?バンドの名前を決める時だよ!!確か、五月くらいだったかな??他はみんな格好いい名前つけたがったんだけどさ、佐々はシンプルにしようって頑固に主張して。』
なんて名前をつけようとしたと思う、と楠田に問われるが白摩は咄嗟に答えられない。
『”春”にちなんだ名前をつけようって、言い出したんだよ!!佐々のやつ!!…白摩さんの名前って、確か”春太”じゃなかったっけ??…だからって、俺には何のこっちゃわからないけど、とにかく佐々は大事なバンド名を決める時、珍しく維持張ったんだ。やべっ、昼休憩終わる!!』
喋り終えると、楠田は通話を打ち切ってしまう。白摩は茫然と携帯を見つめる。
”春”、”ハル”、”春太”…。考えると居てもたってもいられなくって、白摩は幼馴染の家出先のチャイムを押す。しばらくして、無愛想な声が聞こえてくる。
「…帰れっつっただろ。」
「何で、バンド名を俺の名前にちなんだものにしようとしたの??」
扉越しに、相手が息を呑む気配がした。
「あの頃、ミチは俺にバンドボーカルになれって執拗に誘ってきた。ミチらしくなく、食い下がって…。結局、バンドボーカルはハルがしていた。」
でも、と白摩は言い募る。
「ミチはギターが演奏できたし、それまで歌うのが得意だなんて一度も聞いていない。もしかして、ハルは…。」
「うるさい、黙れ。」
「黙らないよ。」
白摩は玄関扉にそっと手を触れて、呟く。
「…ミチは、俺が歌いたいって言ったらいつでも席を譲るつもりで、バンドボーカルをしていたんじゃないの。」
佐々は嘘つきだ。白摩をカゴに閉じ込めて、自分の好き勝手に育てていたなんて嘘八百。本当は、白摩を外の世界に出して囀りを人に聞かせたくてたまらなかった。
だからこそ、佐々が歌ってと誘う声はあれほど優しさに満ちていた。人前で歌っていいのだと、白摩に伝えようと必死だった。
「僕は…僕は、お前なんか大嫌いだ!!お前との思い出は嫌なことばかり!!お前のせいで、心にぽっかり穴が穿たれているんだよ!!穴だらけだ!!元の友達になんか一生戻らない!!」
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