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百瀬の性癖-2
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百瀬の話によると、彼は人望も厚く頼りにされる事が多いので、その希望に応えられるよう自分を磨き続け鍛錬も怠らず、できる限り全力で皆を守って来たそうだ。
期待を裏切る事なく突っ走ってきた結果、誰にも弱音が吐けない状況に追い込まれてしまい、自分で自分の首を絞めていた。
ーー和也兄さんと似てる気がする。とりあえず聞くか……。
「皆は俺を無条件で強いやつだと思ってる。呼び付ければ必ず助けてくれるヒーローだと言われても、正直むず痒い」
そこまで話すと唇をギュッと噛み締めて、泣き出しそうな表情を俺に向け、手を握り締めて来た。痛い。握力が強過ぎる。
百瀬には隠している性癖があって、どうやらそれはマゾヒストだと思われる。「痛みを与えられると性的に興奮してしまうんだ」と悲しそうに、でも俺の目を見ながら真剣に話してくれた。
真剣に語っている相手を茶化す程俺は無神経ではないので、百瀬に対して誠実であろうと思う。
「誰だって隠したい事の一つや二つあるだろう。俺なんか隠したい事だらけだぞ」
「やっぱりな……佐藤なら、端から突っぱねずに、俺の話を聞いてくれるんじゃないかと期待していたんだ。こんなキモい俺の話を聞いてくれてありがとう」
徐々に百瀬の瞳が潤んで来て今にも涙がこぼれ落ちそうだ。百瀬の手の力が抜けたところで俺の手をやつの頭に移動させると柔らかく撫でてやった。
「……続きを聞かせてくれ」
百瀬は喧嘩が強く滅多に殴られる事はないのだが、極たまに相手の拳が命中する事があり、その痛みが気持ちいいと感じる自分に驚くと共に嫌悪感が湧いていたと悔しそうに言った。
性癖を軽々しく打ち明ける事も出来ず、こんな自分を受け入れてくれる人なんて現れるのだろうかと落ち込んだ事もあった……そう語る百瀬は本当に苦しそうだ。
そんな時に俺の存在を知った。
周りからは変人と呼ばれ、避けられているのに全く怯まない。自分の世界を持ち続け堂々としている姿に興味が湧き、もっと知りたいと思うと常に目で追うようになっていたそうだ。
風紀の見廻り中合間を見ては、俺の歩行を見守り、食事風景を見守り、移動教室の往復を見守り……。
百瀬は見守りと言っているが、ストーカーのような事をしていたようで、俺は四六時中見られていたという事になる。しかも俺が落とした物を拾って大切に保管しているとも言っていた。まだ返すつもりは無いようだ……少しキモい。
「それだけじゃないぞ。これは佐藤限定だけどな、君からの精神的苦痛ほど快感を得るものはないんだ」
何かが吹っ切れた百瀬は、清々しい表情になっている。立ち直りの早いやつだ。
ある日俺を追っている最中に二人きりになれたので勇気を出して話しかけてみると、ゴミを見るような目で見られた事に凄まじい快感を覚え、冷たい視線に衝撃を受けたらしい。
更に戸惑う百瀬を見てそれはそれは嬉しそうにニヤリと笑った俺に心を撃ち抜かれ、惚れ込んでしまったそうだ。
それからはもっと罵られたい、痛い事をされたいと焦がれるようになり、佐藤なら本性を知っても受け入れてくれるのではないかと期待は膨らみ、孤独から解放された気がして希望が持てたのだと言う。
「どんどん好きになって……佐藤への想いが抑えられなくて、今夜みたいな事をしてしまったんだ。ごめん」
「ふーん。ヘタレなのか大胆なのか分かんねえやつだな」
いくら気持ちを抑えられ無かったからっていきなり相手の性器をしゃぶるのはご法度だ。もっと厳しく叱りたいところだが、俺の怒りは続かずすっかり許してしまっている。俺ってチョロいよな。
「まあ反省してるならいいさ。一つ引っかかるんだが、どんな性癖だろうが百瀬は百瀬だろ?」
俺はそう言いながら強めに髪を引っ張ったあと優しく撫でるのを繰り返していると「もっと強く引っ張ってくれ」と注文されてしまった。調子に乗るな。
「はあ、佐藤はやっぱり俺が思っていた通りだな」
「……喜んでるところ悪いんだけどな、俺はお前が思ってるようなやつじゃねえぞ。ただ……お前の性癖を普通に受け止められるってだけだ」
「……っ!受け止めてくれるんだな!……やばい勃った」
ーーはあ!?
いったいどこに勃起させる要素があったのか理解に苦しむが、取り敢えず百瀬の隠し通して苦しんで来た性癖なんて俺にとっては屁みたいなものだと伝えておいた。
益々ご機嫌になった百瀬は幼子のように俺にしがみついて来て、普段の凛々しい姿とは別人のようだ。
ーーこれがあの百瀬なのか?
喧嘩の強い逞しい男が、俺だけに縋って来る姿は素直に可愛いと思えるのだが……。
「佐藤……頼む。俺と付き合ってくれないか?好きなんだ……俺をそばに置いてくれ」
健気な事を言う百瀬に絆されそうになる。こいつといたら毎日が楽しそうだし、マゾヒストだろうがなんだろうが誰も分かってやれないのなら俺がまとめて面倒見てやろうか。
ーーしかし、兄の話にかぶるんだよな。
そこで俺の頭の中に、呪いのような声が響き出した。
『そうやって自分だけが分かってやれると思ったのに、俺は一つの家庭を壊してるんだぜ?俺は幸せになっちゃだめだ』
そうだった。俺は兄にとって特別な存在だったのに彼を救えなかった。そして俺は俺に自ら罰を与えたのだ。兄や伯父夫婦の顔が浮かんでは消えていく……。
途端に胸が痛く苦しくなり呼吸が浅くなって来た。
『再び同じ過ちを犯すのか?』
ーーくそっ、息ができねえ。
俺は百瀬の慌てた顔を見ながら生まれて初めて意識を失った。
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