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イかせてやらねえよ-1
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俺が目を開けたまま微睡んでいる間に、部屋決めは終わったようだ。朝丘から202号室だと告げられたので、さも分かってる振りをしながら頷いておいた。
いつの間にか朝丘に世話をされているこの状況に納得はいかないものの、案外楽なのでこのまま任せておこうと思う。
寮に帰って明日からの準備をしようと思ったのだが、何を用意すれば良いのか全く聞いていなかったので、配布されたしおりを頼りに学園指定のリュックに荷物を詰め込んでいった。
大自然の家と呼ばれる宿泊施設は裏山の頂上に建てられており、長年学園が利用しているので信頼も厚く、不便さは全く感じられない。
元来藤沢グループの保養施設として建てられたものを、学園が利用させてもらっている形だ。
バスタオルなどは向こうで用意されているので、下着や体操服の替えをさっさと詰め込むと、あっと言う間に準備は完了してしまった。
きっと友達と交流を持つ者ならば、ゲームやカードで楽しむんだろうなと思うと胸がツキりと痛んだ。q
ーーあれ?俺、友達と交流した事あったっけ……。
兄との秘められた関係が終わり、相手に罪を一方的に押し付ける形で会うことも許されなくなって以来、己に罰を与えたのだから友達と呑気に楽しんでる場合ではなく、孤独でいるのも当然だと思っている。
しかしそれ以前はどのような生活を送っていたのかを思い出せない事に気が付き、急に過去が気になってしまったのだ。
いや違うな。小学生で親父が帰って来なくなり、独りでひもじい思いをしながらも生きるのに、必死でしがみついていたあの頃のことはよく覚えている。
あの時薄汚れた服装をして常に腹を空かせていた俺を、汚い言葉で傷つけ馬鹿にして来たやつらの顔なら覚えている。子供は残酷なところがあるからな。今では何とも思ってはいない。
しかしそのあと兄とハマってしまった性生活以外のことを思い出せないのだ。伯父夫婦に引き取られてからは、何不自由なく暮らしていたことは分かる。その幸せだった頃の記憶がぼんやりしているのだ。
幸せになってはいけないと思うあまり、楽しかった束の間の家族の思い出まで、記憶から排除したというのだろうか。
ーーふっ。徹底してやがるな、おれ。
連絡先を得るために、兄の幼馴染の家は何とか思い出せたのだから、その内思い出せるかもな。
兄の連絡先を聞き出す為、弟であると言う証明になれば良いと思い、自宅から何枚か兄と俺の写っている写真を持ち出したので、手元には昔の俺の姿を記録したものは有る。
ふっくらとした丸い頬を桃色に染めて、清潔な衣服を身につけた俺は、心から笑っているのが分かるくらい幸せそうだ。
この頃の俺を知る者が今の俺を見ても、同一人物だと気付く者は少ないだろう。自分に気が付いて声をかけてくれる者が、果たしているのだろうか……。
ーーいかんいかん。センチメンタルな気分に浸るような、柄でも無いことはやめておこう。
俺は何かを吹っ切るように首を振り、学園の敷地内で商いをしているパン屋で購入したポテトサラダパンを、もそもそ食べて無理やり水で流し込んだ。
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