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登山からの飯盒炊爨-3
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ヘロヘロになりながら目的地に着くと、休む暇もなく飯盒炊爨の準備が始まったので、俺は悲鳴をあげそうになっている。
俺たちを迎えてくれた調理場は、大自然とは名ばかりの豪華な設備が整っており、俺が昔住んでいた家よりよほど綺麗で使い勝手が良かった。
カレーの材料を洗いながら、金に糸目はつけないんだなと、学園と保護者の財力をまざまざと思い知らされ、改めてすげえと感心した。
もう一人のカレー係である速水が、じゃがいもの皮を剥いて切ってくれると言うので、俺はさっさと玉ねぎと人参の皮を剥くと、自己流でカットしていった。
ーーしかし……やっちまったな。
「おーい佐藤くん。これはいったいどういうことかな?」
副班長の田中が、俺のカットした野菜たちをつまみながら、鋭い目で問いかけて来た。怖えぇ。
俺が小学生で自炊をしていた頃、ガス代を減らそうと思い、早く火が通るようにと具材を薄くカットしていたのだが、ついその時の癖で同じように切ってしまったのだ。
「こうした方が……火が通りやすい」
恥ずかしくなった俺が俯きながら小声で弁解していると、隣で様子を見ていた速水がじゃがいもまで細かくカットしてしまった。
ついでに霜が降った高そうな肉を、クーラーボックスから取り出すと、容赦なく刻み込んでいく。
「確かに火が通りやすいよね。今日はこの具材を煮込みまくってドロドロのペースト状にしてしまおうよ。味が染み込みやすいし絶対美味しくなるって」
おおお!この子は神なのか、天使なのか。
散々冷たい視線を浴びせて来た田中だが、速水が言う事にあっさり頷ずくと、途端に誰よりも乗り気になった。理不尽なのは世の常だ。
こうして1年3組2班のカレーは、野菜の形が崩れるまでグツグツ煮込まれて、粗めのペースト状になった。これが思いのほか美味くて大盛況に終わったので良しとしよう。
高校生にもなって川遊びって……。と思っていたのは俺だけなのか、食べ終わったあとに手分けして片付けを済ませると、力と時間を持て余した男子高校生たちが、次々と川へ入って行った。
今日の服装チェックをしよう。
紫色の学園の紋章が入った白の体操服と、紫色に白ラインが入ったハーフパンツ。
その上に同色のジャージ上下。以上。
紫色でも薄めの菫色なので、個人的には上品で気に入っていた。中等部は同じ色目だがラインの数が違い、今でも俺の部屋着として活躍中だ。
暖かくなって来たとはいえ川の水はまだまだ冷たい。こんな中に入る馬鹿がいるわけねえだろと思っていたら、意外と馬鹿だらけだったようだ。
俺は弄られるのを回避して、水辺からは少し離れた木の下に、レジャーシートを敷いて腰掛けていた。遠足ではお馴染みの姿だ。
朝丘にジジイかよと笑われたが、笑いたきゃ笑え。俺はこのスタイルを貫くのだ。
木陰に座って人間観察をしていると、入学式から約1ヶ月しか経っていないのに、カップルが増えている事に気がついた。
流石にベッタリ抱き合ったりはしないが、密かに指先を絡めたり、顔の距離が近かったりと、一目でもカップルだとわかる程度には仲良くしている。
ーー若いもんはいいのお。
すっかり気分も爺さん化していると、川で水のかけ合いが始まったので、見物する事にした。かけ合うふりでもしてるのかと思えば、本気でやり合ってる姿にしばし呆然としてしまった俺は、正常だと思う。
ーーみんなはしゃぎすぎだろ……。
着替えを多めに持っているのだと思いたい。そこまで無謀なやつらと、同級生だなんて俺は嫌だぞ。
以前の俺なら他人に興味など無かったのだから、もちろん人間観察も、同級生を見物することもしなかった。
ずぶ濡れになりながら大声で騒いでいる様子を見て、自分は変わったなと思う。
川は5mくらいの狭いもので、そこらじゅうに岩がゴツゴツしており、道具を借りて呑気に釣りを楽しんでいるやつもいたりする。そこでふと目立つ二人が居たので見てみると、百瀬と速水だった。
速水が岩場で足を滑らせた所を、百瀬が引っ張って起き上がらせるところだった。いつもならキャーキャー騒ぎそうなチワワどもが静かなのは、ちょうど皆の位置からは死角になっていて、隠れているからだ。
俺の場所からはバッチリ見えていた。
速水が百瀬に抱きついて、それを当たり前のように受け止めた百瀬が、優しく頭を撫でているところを……。
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