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朝丘陽向という男-2
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「なに泣かせてるんだ。朝丘、風紀委員室で話を聞かせてもらおうか」
魔王とも言えるような百瀬のお腹に響く低い声に朝丘がプルプル震えだしたので、ここが食堂だということも忘れて大声で叫んでしまった。
「待てよ百瀬!朝丘は俺の中学時代の親友なんだよ!さっき気がついたばかりで感動の再会を果たしてただけだ。だから気にすんな」
百瀬は納得がいかないと言ったふうな顔をしていたが、俺が百瀬の胸ぐらを強く掴んでいる事に気がつくと、目元を赤く染めて、はぅっと変な息を吐き出した。
ーーやっべえ。やらかしてしまったよ。
慌てた俺は小声で百瀬に感じてんじゃねえぞ変態!と言ってしまったのが更に悪い状況を招いてしまい、余計に興奮した百瀬の瞳が潤んで周りが見えなくなっているのか、俺に抱きつこうとしている。
なんだなんだと集まり出した生徒達が、面白いことが起きるんじゃないかと期待した目で見て来たので、下手に百瀬を叱りつけるわけにもいかない。
「はいはい、君たちここは食堂だよ。集まらないで解散するんだ。百瀬、こちらを見るんだ」
危機一髪と思った瞬間、神崎が王子様スマイルで、野次馬を紳士的な態度で追いやると、もう一度百瀬!と強めに名前を呼んだ。
百瀬はやっと状況判断が出来た様で、気不味そうに朝丘にすまなかったと謝罪をすると、他の風紀委員と連れ立って食堂を出ていった。
俺とは赤の他人の振りをしろという言いつけを思い出し、なんとか守れたようだ。
兄の話の決着がついたら褒美でもやらなきゃな。俺がニヤリと笑っている間に朝丘の隣の席に神崎が座っていて、朝丘の肩を抱きながら、大丈夫かい?怖かったねと、優しく声をかけて王子様っぷりを発揮している。
朝丘も大丈夫だ!と神崎に応えると真っ赤な顔をして、そわそわと落ち着きがない。
ーーえええええ!もしやこの二人出来てんのか?いつの間になんだ?
顎が外れたかと思うくらい大きな口を開けている俺に気がついた二人は、顔を見合わせたり逸らしたりと忙しい。
「まあな、こういう事だよ」
こういう事ってどういう事だよ。つまり二人はいつの間にか付き合い出したって事でいいんだよな。
俺はニヤつく顔が止められず、二人の様子に興味を示して再び集まり始めた野次馬たちをニヤつきマックスの顔で見渡したらヒイイイイッッと悲鳴をあげて離れていった。
ーー俺の不気味さもたまには役に立つんだな。
ほんの少し悲しくなったが、それどころではない。まあ仲良くやれよと二人に言うと、朝丘はわかってるよ、と照れくさそうに言い捨てて、神崎からは王子様のように整った顔で助かったよありがとうとお礼を言われてしまった。
バチんと音がなりそうなウィンク付きにはげんなりしたが、二人が幸せそうで何よりだ。
「佐藤!思い出したならもう容赦しねえからな!親友復活だぜ」
いささか臭いセリフに聞こえたが、ここまで嬉しそうに宣言されると、俺だって今までのように無視することなんてできねえよ。
「お、おう」
照れながら返事をすると三人で食堂を出て、また明日なと手を振りながら別れた。朝丘たちとすれ違った生徒が、うっとりした顔で二人を眺めている。誰もが憧れる人物と親友だなんて畏れ多いことなのだが、自然と顔が綻ぶのを隠すことが出来なかった。
兄と話をしてから俺の運気が上がった気がする。兄は寂しがっては居ないのだから、俺だって友達と仲良くしてもいい。ぼっちで居なくてもいいかもしれない。
ーー俺は幸せになってもいいのかな。
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