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そして丸くおさまる-1
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「それにしても長くて濃い話だな」
俺は親父と角松の話が長くて気が遠くなりそうだった。親父が苦労したのも分かったし、俺に会いたいと思ってくれただけでも全て良しなんだけどな。
それにしても角松と理事長の性事情は省略しても良かったんじゃねえのかよ。何を子供に聞かせているんだか。まったく。
「隼人、今更だが一つだけ確認したいことがあるんだ。お前は食事も満足にしていなかったと聞いている。残したお金がそこまで少なかったとは思えないのだが」
「ああ、そのことか。親父はタンス貯金してたよな?それもすぐに無くなったぜ」
「……台所のテーブルに付いている小引き出しの中は?その中にも入れていただろう?」
あ!思い出した。母さんが生きている頃、父さんには内緒のへそくりなのよと言いながら、小引き出しの封筒に貯めていたんだっけ。
だけど親父はその存在を知っていて、自分の小遣いが余る度にその中に入れてしまうもんだから、これじゃあへそくりにならないわねと母さんが大笑いしていたんだ。確かかなり分厚くなっていたな。
「あー、えっと、すっかり忘れてたよ。ごめん親父」
「そうか……あれが無いと、かなりひもじい思いをしたよな。すまなかった」
違うだろ。親父は家を飛び出したにしろちゃんと俺のことを考えて、当面は苦労しないくらいには残していたんだ。
なのに俺が痩せて保護されたと聞いて、ビックリしたに違いない。
「悪いのは俺だ!本当にごめんなさい……なあ親父、色々あったけど別に俺たち親子のままで良くねえか?」
本気で思った事を素直にぶつけてみた。しかし変なところで頑固な親父がまだ何か渋っている。そして歯切れ悪く話し始めた。
「隼人……俺はお前にあんなことをして、自分が信じられなかった」
うーん。ここでしらを切るのも一つの案だが今有耶無耶にすると、さらに親父が頑なになる気がしたのでそれはやめておく。
「ああ、もしかしてあれかな。親父が俺に母さんと間違えて抱きついて来たこと?あんなのなんとも思ってねえよ」
親父は顔を真っ赤にして恥ずかしさに堪えているようだ。ここで終わる方が羞恥の極まりだろうと思った俺は、なおも言い続けた。
「俺は母さんとそっくりだからな、見間違えてもしょうがねえぞ。あの時親父は酔っ払ってたしな」
親父は申し訳なさそうに顔を上げて、やっと俺と目を合わせてくれた。
「俺が敢えて文句を言うなら……出てった切り戻って来なかったことだ」
ハッと目を見開いた親父は今度は困りきった様子でうなだれている。言わなくてもかなり反省はしていたみたいだからな。
「大金を残していた上に、時々食料や常備薬の差し入れをしてくれただろ?俺はあれだけで嬉しかったんだぜ。怒りなんて最初から無かったしな」
とうとう親父の目からはとめどなく涙が溢れ、畳にぽたぽたと音を立てて落ち始めた。
何かを言いたい様だが感極まっているのか、なかなか言葉を発せられずにいる。
それでも何とか気合を入れて深呼吸すると、声を絞り出しながら話した。
「隼人……すまなかった。許してくれとは言わない。でも、謝らせてくれ。本当に悪かった」
もう、この人は相変わらず気が小さいんだな。普通ここなら許してくれって台詞が出るんじゃねえのかよ。ふふっと笑った俺は親父の目を見ながらゆっくりと言った。
「親父。許す!これ以上の言い合いは無駄だから素直に許されておけよ」
「隼人!……はやと、ううっ」
近付いて来た親父と男らしく抱き合うと、お互いに背中をバシバシ叩きあって労った。少し痩せた体で俺を包み込んでくれる親父の胸は、暖かくて懐かしい匂いがした。
「これで丸く収まった様だな。隼人くん、これからもこの頑固親父に会いに来てやってくれ。俺はいつでも歓迎だ」
角松のありがたい言葉には素直に頷いてへらりと笑うと、固くて分厚いグローブのような手で髪をかき乱された。俺はそれがとても嬉しくて、いつまでも笑顔が止まらなかった。
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