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俺と告白-3
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「あのさ、月島は俺とどうなりたいんだ?」
再びここは食堂。速水が委員会の打ち合わせに出ているので今は俺と月島、そして朝丘の三人で昼飯を食っているところだ。突然投げつけた俺の質問にしばらく間を置くと、ふぅと息を吐いて答えた。
「君とは友達以上にはなれないと分かっているよ。だから安心してくれよ」
「でもな、俺達が付き合ってるという噂が流れてるんだ。その事に俺の恋人が傷ついてるのも事実だ」
この際はっきり言った方が良いと思った俺は、恋人の存在をわざと知らしめてみた。本来優しい月島は、唇を噛み締めながら自分も傷ついたような顔をしている。
「そうだよね……僕、嬉しくって、つい君に近付き過ぎてるみたいだ。ごめん」
「分かってくれたらそれでいい」
「うん。僕も男だからね。うじうじするのは性にあわないよ。もう変に近づくのはやめる。……そして、僕の気持ちが落ち着いたら、今度こそ友達として一緒にご飯を食べたりしてくれないかな」
遠慮気味に言う月島が、どんな答えが帰ってくるのかと緊張しているのが伝わってくる。これを断るほど俺は鬼畜ではないし、百瀬も納得してくれるだろう。
「おう、それまでは悪いけど一緒に行動するのは控えてほしい。夏休みの間に噂も綺麗に無くなるだろうからな」
「うん、分かったよ。良かったら僕の試合を応援しに来てよ、その……佐藤くんの恋人とね」
スポーツマンらしく潔く身を引いてくれた月島は、やっぱり男前だと思う。俺もこんなにいいやつと友達をやめるなんて嫌だからな。
「応援か……行ってみてえな」
本音が零れると、月島は嬉しそうに笑って頷いてくれた。
ひとまず解決に向けて事が進んで安堵していると、急に食堂が騒がしくなった。
原因であろうざわついた一角を見れば、そこには百瀬とその彼氏だと噂になっている三年の先輩が何やら言い合っており、静かな攻防が繰り広げられていた。
百瀬が本気で怒っているのが分かり何事かと俺たちも見守っていると、ちょうど百瀬がこちら側に歩いて来てその後を先輩が追って来た。そして百瀬の腕を引っ張ると皆の前で聞こえよがしに大声で話し出した。
「こんなに周りから祝福されてるんだからさ、僕達付き合っちゃおうよ。君に恋人なんて居ないんだろ?」
「だから、居ると言ってるじゃないですか」
百瀬がなるべく冷静になろうとしているのが伝わって来た。相当不機嫌なのを我慢しているようで痛々しくなって来る。
「じゃあ、皆の前でその恋人の名前を言ってみなよ!そしたら皆も納得するじゃないか」
「うっ……それは、言えません」
「居ないから言えないんだよね?」
尚も問い詰めていく先輩に、百瀬よりも俺の方がムカついて来た。先輩がこの場で百瀬を自分の彼氏にしようと必死になっているのが伝わり、胸糞か悪くなって来る。
「相手に迷惑がかかるから言えないんです」
百瀬は辛そうに綺麗な顔を顰めて苦しそうに言った。それを聞いた野次馬たちが、確かに制裁とかやばそうだよな、と口々に話し出した。それを聞いてふっと何かを含んだような笑いを浮かべた先輩が、百瀬をじっと見たあと落ち着いた声で問いかける。
「僕なら制裁なんて怖くないよ。その恋人は随分と臆病なんだね、ふふっ」
「ちがう!あいつは臆病なんかじゃない!俺よりずっと強いやつだ」
百瀬が泣きそうな顔で叫んだ瞬間、俺の中で何かが吹っ切れた。何をうじうじしていたんだろうかと自分に腹が立って来る。
俺はすっと立ち上がって百瀬の横まで大股で歩いて行くと、静まり返った食堂を見渡して、最高級の不気味さでニヤリと微笑んだ。何人かがヒイイッと小さく悲鳴をあげたが素知らぬふりをして、人生初の告白をした。
「百瀬の恋人は、俺だ!」
ええええええええええっっっ!!
誰かが仕込んだのかと思うほど、一同に声を揃えて驚いているやつらを見ながら更に叫んだ。
「いいかお前ら、制裁などクソ喰らえだ!俺に不快な思いをさせたやつは、倍返しで再起不能にしてやるからな!それでも良いならいつでもかかってこい」
普段ぼそぼそとしか話さない俺が、腹から声を出している姿は相当珍しいのだろう。一斉に息を飲んで黙りこくっている。
言い終わった俺は内心ヒヤヒヤで、なんなら少しチビったかも知れない。あれだけ制裁を怖がっていた俺がどの口で言うよ、と自分にハリセン付きで突っ込みたい気分だ。
静まり返った食堂で、不意に後ろから抱きしめられた。百瀬さーん、流石にそれはやり過ぎではないかなあ……。
「佐藤!さとう、さ、とう……ありがとう。あぁ、夢みたいだ……君は俺が守る!だから心配するな」
ええええええええええっっっ!!
再び皆が騒ぎ出したところで、出て来るタイミングを伺っていたであろう神崎が登場したので、何とか混乱は避けられたようだ。
「さあ、あと少しで昼休憩も終わるよ。集まらないで。ほら解散!」
その一言で、まだまだ俺たちを見足りないやつらは後ろ髪を引かれているようだが、何度も振り返りながら離れて行った。百瀬を追い詰めた先輩は、取り巻きたちに連れられてさっさと出口に向かって歩いて行く。
「佐藤!絶対に守るからな!好きだ!」
半数くらいは離れて行ったとはいえ、近くに残っている生徒がまだ沢山いるのに我慢できなかったのだろう。百瀬が皆の前で隠すことなく言ってくれたので、俺だって誠意を返すに決まっている。よしっ!
「お、おおおおれだって、好きだぬっ」
「……お、おう」
ーーうわあ、肝心なところで噛んじまった。恥ずかし過ぎんだろ、おれ。
視界の端に朝丘たちがずっこけるのを見届けて、ナイスリアクションおつ、と心の中で労っておいた。
これから何が起きるか分からないが、百瀬に守られてばかりでは男が廃るからな。俺だってもう逃げないぜ。
百瀬の相手が俺だというのがまだ信じられないやつ。俺の噛み噛み具合にひっくり返ったやつ。どさくさに紛れて神崎と百瀬の写真を撮るやつ。色んなやつが入り乱れる食堂で、俺たちは照れ隠しに笑いあった。
了
完結しました。
この変態二人を見守って下さった皆さまに、心から感謝いたします。
まだまだ何かと起きる予感のする二人なので、思い付いたら続編や番外編を書きたいと思います。
その時は又、宜しくお願い致します。
読んでくださり、ありがとうございました。
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